沈黙 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1981年10月19日発売)
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ブクログ内での評価も高く、手にしてみましたが、大満足の一冊でした。

時は島原の乱(1637-1638年)が鎮圧された頃の江戸初期。

キリシタンへの弾圧が強まる中、命をかけて日本に渡ったポルトガル人ロドリゴの物語。

隠れキリシタンとなった日本人に対して行われる容赦のない取り締まりで捕らえられた信徒に待つのは残忍な拷問。

逃げまどうロドリゴも信徒に裏切られ囚われの身に。

神は何故助けてくれないのか?

何故何も言葉をくれないのか?

苦悩するロドリゴは徐々に自ら神に対して疑心を抱くようになる。

私自身もそうですが、日本人は世界的にみても宗教とは少し距離を置いた人種だと思います。

神よりもどちらかと言えば先祖を祀り、亡くなった人のために経をよむ。

キリスト教・イスラム教・ヒンドゥー教・ユダヤ教等々、世界には多くの宗教が存在し、多くの信徒がいます。

もちろん日本人の中にも熱心な信徒の方もたくさんいらっしゃるのも理解しています。

本作はキリスト教が中心の為、本作での「神」=「イエスキリスト」なのですが、「神」とは何なのか?

弱い人間を導き、道を示してくれる導師?

人々が苦難の時、迷い、悩んだ時、「神」は人々を救うために何かを語ってくれるのでしょうか?

「沈黙」

すごくすごく深い作品でした。


説明
「転びキリシタン」もまた、「神の子」なのか?
カトリック作家が描く、キリスト教文学の最高峰。

島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制の厳しい日本に潜入したポルトガル人司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して苦悩し、ついに背教の淵に立たされる……。
神の存在、背教の心理、西洋と日本の思想的断絶など、キリスト信仰の根源的な問題を衝き、〈神の沈黙〉という永遠の主題に切実な問いを投げかける長編。

著者の言葉
長崎で見た、踏み絵の木枠についた指の跡のことを、東京へ帰ってからも私は忘れられませんでした。夕べに散歩する時、夜に酒を飲む時、黒い指跡が目に浮かびました。
そして三つのことを考え続けたのです。ひとつは、踏み絵を踏んだ時の気持ち。次に、踏んだのはどんな人だったろうか。そして、私がその立場にたたされたら踏むかどうか。
強い信念を貫き通すより、踏む可能性の方がはるかに高いと思ったな。拷問は苦しいだろうし、やはり家族まで殺されるのは可哀そうです。私は弱虫なのです。これは、今日会場にいらっしゃるみなさんの三分の二は私と同じだろうと思う。
小説というのは、やみくもに書くのではなく、自分の視点から書くものです。そして『沈黙』は、〈迫害があっても信念を決して捨てない〉という強虫の視点ではなくて、私のような弱虫の視点で書こうと決めました。弱虫が強虫と同じように、人生を生きる意味があるのなら、それはどういうことか――。これが『沈黙』の主題の一つでした。(「波」2016年10月号、講演採録より)

本書「解説」より
主人公の必死の祈りにもかかわらず、神は頑なに「沈黙」を守ったままである。果して信者の祈りは、神にとどいているのか、いやそもそも神は、本当に存在するのか、と。
これは、キリスト教徒にとっては、怖ろしい根源的な問いであり、ぼくら異教徒の胸にも素直にひびいてくる悩みであろう。このモチーフを追いつめてゆく作者の筆致は、緊張がみなぎり、迫力にあふれていて、ドラマチックな場面の豊富なこの長篇の中でも、文字通りの劇的頂点をなしている。
――佐伯彰一(文芸評論家)

遠藤周作(1923-1996)
東京生まれ。幼年期を旧満州大連で過ごす。神戸に帰国後、12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て1955年「白い人」で芥川賞を受賞。結核を患い何度も手術を受けながらも、旺盛な執筆活動を続けた。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品や歴史小説、戯曲、映画脚本、〈狐狸庵もの〉と称されるエッセイなど作品世界は多岐にわたる。『海と毒薬』(新潮社文学賞/毎日出版文化賞)『わたしが・棄てた・女』『沈黙』(谷崎潤一郎賞)『死海のほとり』『イエスの生涯』『キリストの誕生』(読売文学賞)『侍』(野間文芸賞)『女の一生』『スキャンダル』『深い河(ディープ・リバー)』(毎日芸術賞)『夫婦の一日』等。1995年には文化勲章を受章した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年3月20日
読了日 : 2022年3月20日
本棚登録日 : 2022年3月20日

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