雪は天からの手紙: 中谷宇吉郎エッセイ集 (岩波少年文庫 555)

著者 :
制作 : 池内了 
  • 岩波書店 (2002年6月18日発売)
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本棚登録 : 391
感想 : 32

雪の結晶を研究する物理学者、中谷宇吉郎のエッセイ集。
高野文子さんの『ドミトリーともきんす』で紹介された研究者の本を読んでみよう、ということで手に取った。

本書は、内容をもとに「北国での研究」「科学者たち」「日常の科学」「科学のこころ」「若き君たちに」という章分けがされている。

「北国での研究」に収められたエッセイは5編。自身の研究内容や研究方法の紹介が中心である。やや難しい部分もあるが、中谷の研究に対する興味と熱意が伝わってくる。また、雷に関する日本の伝承を科学的に検証する「雷獣」では、古くからの言い伝えも尊重しながら雷の仕組みを解明していく柔軟な姿勢がすばらしいと感じた。

「科学者たち」には、恩師寺田寅彦や友人湯川秀樹など、関わりのあった科学者についてのエッセイを収める。特に寺田寅彦の科学者としての矜持を尊敬の念をもって語った「長岡と寺田」は、読んだ後に寺田ファンになること間違いなしである。

「日常の科学」は、胚芽米や茶碗の曲線など、社会に存在する一般見解や日常道具の合理性を科学的に検証する内容のエッセイが中心になっている。
特に印象に残ったのは、中谷が寺田寅彦の指示のもと線香花火の仕組みを分析する「線香花火」。寺田は、地方の教員に就く卒業生たちに、金や設備がなくともできる物理実験を方法とともに伝えていたらしい。それは、研究者の夢をあきらめて別の道に進む者たちに、日常の中にも科学の謎がたくさんあること、熱意さえあればどこででも研究はできることを伝えたかったのではないかと思う。(結局、線香花火の実験は誰もやるものがなく、かんしゃくを起こした寺田が中谷に命令して実施することになったそうだが。)

「科学のこころ」は、世間の声に惑わされず、科学的な見識を持って物事を見ることの大切さを伝える。「千里眼その他」は、当時流行った「千里眼」ブームとその根拠を科学的に明らかにするために行われた実験の経緯を書いたエッセイで、たくさんの情報に踊らされがちな現代人はよりいっそう心にとめておかなければいけない内容だと思う。

「若き君たちへ」では、世界の中にある不思議に対して、まずは難しく考えずに調べてみることの大切さを説く。若いお嬢さんたちのグループが興味のままに軽やかに行った「霜柱の研究」は、その経緯も含めて読んでいてとても面白かったし、終戦直後の食糧難で厳しい寒さの北海道の冬、子どもたちに『ロストワールド』の話を語り聞かせた思い出を綴る「イグアノドンの唄」は、亡き子供への想いが胸に迫ってくるようだった。

科学の面白さを伝えようという中谷の熱意と、それを少年たちによりわかりやすく届けたい、という岩波少年文庫の編集者たちの想いのつまったすばらしい本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 物理学
感想投稿日 : 2023年7月22日
読了日 : 2023年7月21日
本棚登録日 : 2023年7月22日

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