火曜クラブ (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 54)

  • 早川書房 (2003年10月15日発売)
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本棚登録 : 1436
感想 : 146

ミス・マープル初登場の短編集。
本人だけが解答を知っている未解決事件を披露して全員で真相を推理する安楽椅子探偵もの13編。内容は、ミス・マープルの自宅が舞台の前編と、長編作品でもたびたび登場することになるバントリー夫妻の自宅が舞台の後編に分かれる。

霜月蒼氏の『アガサ・クリスティー完全攻略』によると、前編は1920年代に雑誌で発表され、好評だったことから後編が発表されたらしい。そのためだろうか、前編のミス・マープルはキャラクターが薄味で、長編を先に読んでいると「いやいや、本当のミス・マープルはもっと正義感が強くてアクティブなんだけどね」とつっこみたくなる。

一方、後編のミス・マープルは、元警視総監のサー・ヘンリー卿に能力を認められた鋭い視点を持つ老婦人として描かれており、面目躍如といったところである。また、バントリー夫妻をはじめとした他の登場人物も、前編に比べてキャラクターに肉付けがなされており、面白さが圧倒的に増している。

私の好きな短編は、後編に収められている『青いゼラニウム』と『二人の老嬢』。
『青いゼラニウム』は、迷信を信じやすい悪妻ミセス・プリチャードが死を暗示する妙な手紙を受け取り、その手紙の通り亡くなってしまう。真相は現実的に解明されるが、ストーリー全体を覆うオカルトチックな雰囲気がくせになる。

『二人の老嬢』は、一見何の特徴もない二人の典型的なイギリス人女性が海でおぼれ、一人が亡くなった後もう一人が自殺してしまう事件の真相を解く。「老嬢」といっても40そこそこで、真相も皮肉めいていて、それはないでしょう、と切ない気持ちがあとを引く。

クリスティーファンにとっての本書のもう一つの魅力は、各短編の中に後の傑作長編へと昇華する原石のストーリーが数多く含まれていることである。長編と短編、どちらから読むのがよいのかは好みによるかもしれないが、私は先に長編を読んだ方がクリスティーの魅力を味わえるのではないかと思う。

クリスティー作品をいろいろな意味で楽しめるおすすめ短編集。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アガサ・クリスティー
感想投稿日 : 2024年1月14日
読了日 : 2024年1月14日
本棚登録日 : 2024年1月14日

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