自分も東京の下町を一緒に歩いているような錯覚に陥った。挿絵も濹東綺譚の世界へ誘ってくれるような、あの時代の情景が目に浮かび生活の音が聞こえてくるような心地の良い気持ちになった。
わたくしとお雪とは、互いにその本名も住所も知らずにしまった。ただ濹東の裏町で、一たび別れてしまえば生涯相逢うべき機会も手段もない間柄であるー
今の時代、SNSを見れば個人情報はダダ漏れ。どんな人となりなのかあっという間にわかってしまう。
そんなものを持ち合わせていない時代、
相手の事をほとんど知らぬまま、でも思いだけは残り別離する。そのせつなさがとても上質なものに感じた。
そして、個人めいめいに他人よりも自分の方が優れているという事を人にも思わせ、また自分でもそう信じたいと思っている心持ち。明治時代に成長したわたくしにはこの心持ちがない。これが大正時代に成長した現代人とわれわれとの違うところですー
と言う描写。承認欲求を欲する現代のことを言っているようだった。時代は繰り返しているのだと滑稽に感じた。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年9月19日
- 読了日 : 2022年9月19日
- 本棚登録日 : 2022年9月19日
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