母の苦、父の苦、夫の苦……。
母は入院、父は犬とふたりきりでさびしい、夫には瘤ができ娘はやせ細っている。伊藤比呂美は人々の苦を案じながらスーパーマンのように家庭のあるカリフォルニアと実家の熊本を飛行機で行ったり来たり。
そうしてたまに思い出したように巣鴨のとげ抜き地蔵にお参りして皆の苦のとげを抜いてもらう、はたまた「みがわり」をもらっていく。
「みがわり」をオグリさんに渡す伊藤比呂美の言葉はまさに巫女さんのそれのよう。この言葉が心地いい。
エッセイなのか小説なのか詩なのか、なんだかそんなものたちの中間のような本でございます。
中原中也をはじめとする詩人たちの「声」、それから娘や夫のはなす英語を訳すのではなくそのまま日本語にもってきたようなことば(これには驚き!)、そして詩のような呪術のような祈りのようなことばの紡ぎ方。
伊藤比呂美はことばを食って食って食いまくるのだと思った。単細胞生物をおもわせるその貪欲さ。そして読後、「伊藤比呂美語」の感染力の高さたるや。感服いたしました。
僕は伊藤比呂美がとても好きなのです。
母親の巨大で醜悪なおっぱいが怖さに脇に噛みついたり、ニキビつぶしはセックスとおなじであると断じたり。なにを考えているのかよくわからないから。
父と母の苦を信仰心が足りないせいとキッパリ、これも潔い。
といっても伊藤比呂美自身はなになに教徒とかではない。あえて言えば巣鴨のとげ抜き教? それよりもアニミズムを根底とする八百万の神をたたえる……つまり典型的日本人のアレでございます。
現代の日本ではこういったあやふや信仰心すら失われつつあるように思います。しかし死に直面したとき一体どう生き、どう死ぬのか。
この本を読んで僕も両親の今後を考え、そして両親の信心の無さを嘆いたのであります。
- 感想投稿日 : 2012年10月2日
- 読了日 : 2012年9月30日
- 本棚登録日 : 2012年4月10日
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