眠れる美女 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1967年11月28日発売)
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「眠れる美女」
男性として使い物にならなくなった老人たちには
自らを恥じる部分がある
そんな老人たちを相手に、眠らせた若い生娘を用意して
まるで人形を愛でるように好き放題なで回し
楽しんでいただこうという
そういう業態の店があるらしい
老いたりとはいえ、まだ男性であることを捨てていない主人公は
店の禁制を破り、本番行為に至ることも
考えてみたりした
しかし実際にスヤスヤ寝ているすっぱだかの処女を前にすると
なぜか、過去の嫌な記憶が浮かんできて
気力は萎えてしまうのだった
ひょっとすると、そうやって悩んでいる状況じたいが
すでに魔界の中なのかもしれない
あるいは
自分を押しとどめようとする人生の積み重ねそのものが…

「片腕」
若い娘の右腕を借り受け
これを自宅に持ち帰り
様々な愛撫を試したのち、自分の右腕と付け替えてしまう
まさに変態と言わざるをえない所業だが
逆に考えると
娘の右腕に自分自身を差し出しているわけでもあって
男はそれに耐えられないのだった

「散りぬるを」
作家志望の家出娘ふたりに借家を与え、面倒みてきたのだが
ある日侵入してきた男に、両方殺されてしまった
いずれ愛人にできただろう娘たちのことを惜しみつつ
殺人者の行動記録に、小説家はある寂しさを見た
こういう、構造主義的な批評精神が
戦後の「魔界」へと結実していったのだろう
それは善と悪のボーダーレスな世界観であって
虚無主義に陥りやすく
そのために強い秩序を必要とするものであった

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感想投稿日 : 2021年10月14日
本棚登録日 : 2021年10月14日

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