セプテンバー・ラプソディ (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 2-25)

  • 早川書房 (2015年1月9日発売)
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感想 : 14
5

やっと読了。かなりのボリュームでした。

高名な物理学者の血を引くクスリ中毒の
女性を助けたロティに、ヴィクが助力する
ところからお話が始まります。

その女性、ジュディの息子、マーティンは
母や祖母と違って、物理学の天才。
IT企業でアルバイトをしていますが、
失踪してしまいます。

ジュディの母、キティに頼まれ、マーティンを探すヴィクですが、なかなか彼は見つかりません…。

第二次大戦中のロティに深く関わるお話。
マーティンの一家は、かつてナチから迫害を受けていたり、マンハッタン計画に関わった学者が出てきたり、現代のシカゴと大戦中のヨーロッパを舞台に、そう来るか!という歴史の謎解きも楽しむことが出来ます。

前々から思っていたことですが、パレツキーのライフワークの中には、『第二次大戦を風化させない』と言う内的テーマがあるのでしょうか。

いま、NHKのドキュメンタリーでも見ない限り、私達も、遠い記憶のように思っている戦争。それが本当に、もう起こる心配がないから遠い記憶になっていくならいいのですが…。

むしろ北朝鮮の情勢などは緊迫し、私達は戦争の影に怯えています。こういう警鐘の鳴らし方もあるのですね。

個人的には、ヴィク、
五十歳を過ぎても、お洒落好きで
パワフルで、危険な現場に飛び込んでいく
ヴィクは、一時期より若々しく、音楽家の
恋人、ジェイクとも上手く行っているようです。

一度

「あら私、もう歳かしら…。」

なんてところを通って、

「年齢なんか関係ないわ。私は私。今の私を愛して、思うとおりに生きるのよ。」

というふうに変化する…そしてもう一つ魅力的になる…というのは、この年齢の女性の、共通する心理的変化なのかもしれませんね。

おばあちゃんなんかじゃありません。
ヴィク、今が一番いい女なんじゃないかしら。

すぐカッとなる感じじゃなくて、優しさも見せてる。怒らなきゃいけないものには、敢然と立ち向かう。そのバランスがいい感じ。

彼女の、大きな権力にも屈しない強さ。本当のことが分かるまで、手を緩めないで事件を追う姿勢が、歴史の闇を解き明かしたり、事件に関わった人々を良い方向に向けていく姿は見ていて痛快です。

それだけじゃなくて…。上に書いたように
大きなテーマが隠れていて。

時間が解決して、生活が変化するとか、自分の人生史に新たな一ページが加わるとかは、一人ひとりには大きな変化だけど、歴史の中で起きる出来事としては、とても小さなこと。

でも、それを通して…
あの戦争を忘れたらダメよ。私達がそれを覚えてて、危機感を持ってることそのものが、大事なことなのよ…というメッセージも、伝わっていると思うのです。

やっぱりこのシリーズ、大好きですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2018年2月8日
読了日 : 2018年2月8日
本棚登録日 : 2016年9月15日

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