我、言挙げす

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年7月14日発売)
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本棚登録 : 171
感想 : 20
5

前巻2冊が龍之進中心で
伊三次達はひと休みといった感じでしたけれど、
今回はバランスが良いです。
特に良かったのは、「明烏」。

お文がもし、大店の娘として
迎えられていたらという幻想譚。

自分の意志で選んだ幸せ・そして苦労...。
幸せには違いないけれど、ふと、
迷いや悔いまでいかない、
そのくせ心に引っかかる悩みが
若くはない、さりとて嫗になったわけでもない、
大人の女に影を落とす瞬間を描いています。

好いた惚れたを言わなくなって共棲みしているお文と伊三。
夫婦としては当たり前なのですが、どこかで
「苦労してくれて当たり前」と互いが思っている時に
陥りやすい悩みなのかもしれません。
違う幸せが、あったかも...。と。

でもやはり、お文は世間は甘くないと気を張ってきた
自分の読みは正しかったことを知ります。
伊三次と自分が、熱く深く、想い合っていることも。

所詮自分の手で掴んだものでない金や幸福は
泣いても笑っても他人のもの。
自分で生き抜ける幸せを
お文は思い知ったことでしょう。

夫婦も危ういときに、常と同じとタカをくくっていると
壊れてしまうのでしょうが、夢の中で離れてみると
一途になれたりして。いい読後感でした。

龍之進のひとときの淡い恋物語も余情があって
いい男になっていくのを予感させます。

金とお役目と世間の目に傷つけられた男の
末期の心意気とかなしみを描いた表題作では
伊三次一家は,苦労して構えた家を
類焼で焼け出されて家を失います。

急展開があるかもしれない次作、
一気に読みそうです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年12月2日
読了日 : 2011年12月1日
本棚登録日 : 2011年9月18日

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