下級官僚マカール・ジェーヴシキンと若い娘ワーレンカ、二人の手紙の往還で構成された、所謂書簡体小説。手紙を通してペテルブルクの下町に生きる人びとの貧しさ、愚かさが描かれる( 一般的には庶民の善良さと評されるかも知れぬが、私には愚かさに思われた )。時代は19世紀後半頃か。
ドストエフスキーのデビュー作と言われ、発表当時激賞されたという。だが、私はそこまでの傑作とは思えなかった。どうも腑に落ちない部分が多いためである。
一つはマカールが頭もはげ上がった中年のオヤジで、ワーレンカは二十歳前の娘、そんな男女の純愛にしっくり来なかったからだ。読みながら( 書簡体小説のためもあり )まるで「 足長おじさん 」だなと思うことしばしばであった。
二つめは、終盤のワーレンカの結婚のくだり。ワーレンカは突然求婚してきた黄金持ちの男のもとに嫁ぐことを決意するのだが、以降の展開がしっくりしなかった。マカールおじさんは悲嘆に暮れて悲恋のうちに物語は幕を閉じるのか…と思いきや、そんな雰囲気にさせてくれない。ワーレンカは急遽の婚礼準備に大忙しとなるのだが、新郎の男はそれをほったらかし。困ったワーレンカは婚礼衣装の仕立て屋への刺繍の意匠の伝言などを、マカールおやじに命じて奔走させる。アッシー扱いだ。このくだりで純情乙女だったワーレンカが急に我儘放題のイヤな女に変じた印象。純情悲恋に傾きかけた感じが損なわれる。これらの点で作品構成の技術が巧くないように思われた。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外文学(古典)
- 感想投稿日 : 2021年9月19日
- 読了日 : 2021年9月16日
- 本棚登録日 : 2021年9月9日
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