スローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)

  • 早川書房 (1978年12月31日発売)
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感想 : 244
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ヴォネガットは第二次世界大戦でヨーロッパ戦線に赴き、ドイツで捕虜となり1945年2月のドレスデン大空爆を被害者の側から体験した、との解説を読み、読み始める。

作品は、わたしの書いた小説の内容となっていて、そこでの主人公ビリー・ピルグリムは1922年生まれでヴォネガットの分身といえる。そしてユニークでSF的な描写が、ビリーが時空間を自在に行き来している点。過去現在遥かなる宇宙とビリーの意識は自在に飛ぶ。ビリーは遥か宇宙の彼方のトラルファマドール星にもいて動物園で見世物になっているのだ。

そして、物語に通奏低音的に流れるのがヨーロッパ戦線で捕虜になりドレスデンに流れ着く様だ。空襲では地下にいて助かったが、どんな運命、死のうと生きようと「そういうものだ」<So it goes>という言葉でビリーの運命はかたずけられる。この言葉が一番印象に残る。あっけらかんとした生死、人生の進行。これが「スローターハウス5」という「屠畜場第5棟」での捕虜生活と空爆後の廃墟を体験したことから得た人生観なのだろう。

行きつ戻りつするビリーの時空間移動には、キリスト教の残虐性とか、きれいごとじゃない社会がさりげなく描かれている。そして行きつ戻りつする時空の間に戦線がはさまれることで、よけい戦争が際立った感じもした。そしてなにか頼りなげだが、しかしからくも生き延びているビリーを応援してしまっている、不思議な小説。


1969発表
1978.12.31発行  1988.7.31第11刷 図書館

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・小説(SF)
感想投稿日 : 2023年7月19日
読了日 : 2023年7月19日
本棚登録日 : 2023年7月17日

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