湿地

  • 東京創元社 (2012年6月9日発売)
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レイキャビク2001年、男が自室アパートで殺されて発見。70才前後、血が流れたそばにはガラスの灰皿が落ちていた。調べが進むうち、殺された男ホルベルクのおぞましき過去が露わになる。現場に残された紙片にあった「あいつ は ・・」という言葉、この言葉こそこの犯罪の要なのだが、あまりにも悲しすぎる。

刑事たちは30年前の男の過去を調べる。人口30万人のアイスランドだからできるのか、その遺伝子情報データが一か所にそろっているのだ。ここで露わになる事実には目を背けたい。しかし、執拗な描写は、巻末の著者の弁によれば、「私は女性に対する暴力の正体を男たちに知らせたい」のだという。そして「犯罪小説は、”人間の条件(human condition)を描く文学、すなわち、ある人物が自分や周りの人々の人生を良くしようとしてしたこと、ないしはしなかったことを描く文学であり、常に自作ではそれを心がけている」のだという。

あまり情報の入らないレイキャビクやアイスランドの暮らしがちょいちょいと描かれる。最初にレイキャビクの市街地図が載っていて、殺されたのはノルデュルミリという地区で「北の湿地」という意味。広そうなレイキャビク美術館に接していて、少し行くと絶景建築写真集などで見た、「ハルグリムス教会」などもある。

調査で分かったこととして語られるのは、ノルデュルミリに半地下のあるアパート群があり、そこの建物は戦時中と戦後にたてられた。アイスランドは独立し、通りの名前はアイスランドの英雄伝説(サーガ)からつけられた。この街には貧富、あらゆる種類の人間が集まり、湿地には金のない人が住んだ。建物の所有者が地下に下働きの者を住まわせ、それがアパートになった。


訳者あとがき
アイスランドは874年にノルウェー人バイキングが乗りこんで、それまで無人島だった島にスコットランドとアイルランドのケルト人とともに定住。世界最古の議会アイシンクも設けられたが13世紀以降ノルウェーとデンマークの.支配下に置かれる。19世紀に独立運動が起き、1874年にアイスランド自治法が制定されたが、その後もデンマークの支配下に置かれ、1944年に共和国として完全独立を果たす。国土は北海道と四国を合わせたくらい。人口32万。

アイスランド語はアイスランドの人口32万人のみが使っている言語で、訳者はスウェーデン語に訳されたものから日本語にしている。共に古ノルド語を土台としていて言葉のニュアンスや雰囲気が近い。またファーストネームが正称で、姓のほうは一般に使われない。

レイキャビク警察犯罪捜査官のエーレンデュルの元、配下のエーリンボルク、シグルデュル=オーリが捜査に当たる。エーリンボルクは女性。う~ん、発音しづらくて覚えずらい・・

☆早川海外ミステリハンドブック2015:北欧ミステリ

2000年発表
2012.6.15初版 図書館

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・ミステリー 海外(英米以外)
感想投稿日 : 2022年10月16日
読了日 : 2022年10月15日
本棚登録日 : 2022年10月15日

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