安楽死を遂げた日本人

著者 :
  • 小学館 (2019年6月5日発売)
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走り書き。

小島ミナさんは本当に恵まれた人で、本人の望み通り安楽死ができて本当に良かったと思った。恵まれていたと感じる条件が、①家族の理解、②タイミング、③経済的余裕、④宮下洋一氏と知り合えたこと、だと思う。

①家族の理解に関しては、両親共に他界しているようで、説得するのは姉2人と妹1人。小島氏は独身なのでパートナーや子供はいない。愛犬がいたため発病後の療養生活を頑張っていたがその犬も寿命で他界。姉2人が素晴らしく聡い方で、本人の意思を尊重してくれ、共にスイスにも同行した。特に長姉は同居をして面倒を看ていたりと献身的であった。さて、私の場合はどうか?両親二人とも、あるいは片方を説得できてももう片方が安楽死を尊重してくれない気がする。夫自身は安楽死に反対の立場のようだが、説得できそうな気がする。子供を残していくことはどうだろうか?例えば、子供が成人していれば納得して貰えるだろうか?

②本人がまだ渡航できる体力があり、医者と意思疎通できる程に話せる状態である中に、ライフサークルから提示された日程に決行できたことは、タイミングが良かったと思う。あまり早すぎてもまだ安楽死の必要がない、と言われて日本に引き返すことになるし、遅すぎたら渡航も出来ず、医師とも話せないのではライフサークルの要件に当てはまらなくなってしまう。またコロナ前であったことも彼女にとっては幸いで、コロナ禍では多くの方が安楽死を諦めざるを得なかったのであろう。

③経済的余裕 自殺幇助にかかるお金が100万円程。加えて、彼女の病状からファーストクラスに乗ったため片道190万円。出国の際、片道だったのを怪しまれて帰りのエコノミーのチケットも急遽購入。姉二人はエコノミーだったのだろうか?お金がないと安楽死もできないのだなぁ、死ぬのにも大金がかかってシビアな世界だ、と思った。これは誰かが安楽死を望んでこちらが尊重していても、ポンと出せる額ではない。

④作者と連絡を取っていて、面識があったこと。医師の勘違いで日程の融通が利いた印象。小島氏のスイス渡航後もNHKドキュメンタリー撮影の関係もあってか、ライフサークルの代表医師との最初の面談の時に宮下氏が同席しており、英語で通訳をして貰えたこと。この通訳がなかったらこの計画は頓挫している可能性もあったようだ。まさか安楽死をするのに語学力が必要だなんて想像していなかったのでリアルだなと感じた。書類やメールも英文(あるいは独・仏等)でないといけないので、必要な書類を揃えることもかなり大変そうだった。
必要書類も事前に提出していなかったり、日本円もスイスフランに両替していなかったり、メールが送れなくなったり、少し準備が甘く綱渡り的に決行されたのも本当に運が良かった印象、宮下氏と知り合いじゃなかったら断られていたのではないだろうか。代表医師も無理だと言っていたのに突然受け入れがOKになったり、最後まで何が起きたのかよく分からなかった…。

日本では安楽死は違法だが、尊厳死(延命治療を中止すること等)と緩和ケア、セデーション(sedation、鎮痛)という選択肢があるとのこと。ただし、緩和ケアは日本ではがん患者等対象が限られているのと、順番待ちがあるよう。セデーションに関しては、例えば自分がコミュニケーションを取れなくなってしまった後に家族に反対されてしまったら決行してもらえない。また、痛み抜いた末にやっと決行して貰えるようだ。

著者は、安楽死には反対の立場を一貫している。自分が小島氏のような状態になったら?「なってみないと分からない」と答えている。このテーマに関してのルポルタージュを2冊書いている方なので、それはもう想像済みで、想像した上で安楽死はしない、反対だ、という立場なのかと思った。何人もの現場に立ち会うと分からなくなるのかもしれない。小島氏のような、すぐに死ぬわけじゃないが、段々と自分の力だけで日常生活が送れなくなる、というのは想像は難しいが、擬似体験はできるのではないか?まあ絶対実現しない話なのだが、例えば病院の一室で、体を動かすことを禁止して(手足も動かせない、話せない)、食事も点滴で摂り、排泄の世話もスタッフに面倒をみてもらう。こんな生活が何年も何十年も続く。1週間体験するのも辛いんじゃないだろうか?同じ状態であっても懸命に生きている人もいる。喜びを見出している人も、負けるもんかと闘っている人もいる。でも、小島氏のように「こうやって生きながらえることに意味はあるのか?」と、もう自分の幕は自分で閉じたくなる人の気持ちも尊重されるべきではないだろうか。

作中の吉田氏はがん患者で渡航が叶わず最期はホテルで亡くなったようだが、作者は最後に家族に面倒をみてもらえて安楽死よりずっと良かったはずだ、と言っていた。少し疑問である。臼井氏に関しては、安楽死の仲介をするビジネスを考えているようで、こちらもなんとも言えない。最近も違法な臓器移植のNPOに大金を払ったものの失敗、なんてニュースがあり、こちらもキックバックがあったような気がするが…。安楽死を提供するビジネス、と、安楽死の「仲介」をするビジネスというのは全く違って、違和感がある。海外でそんな企業はたくさんあるのかもしれない。

著者の前作は未読。この本を読了した後にNHKのドキュメンタリーも見たが、本の方が詳細で説得力があった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月3日
読了日 : 2023年5月2日
本棚登録日 : 2022年3月11日

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