ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

  • 新潮社 (1974年12月24日発売)
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感想 : 607

数年前、吉田秋生さんのコミック「BANANA FISH」がお気に入りで、その頃特装版が書店に並んでいて我慢するのが大変だった。主人公アッシュ・リンクスは、ビジュアル的には原作よりもアニメの彼が好みでしたわ。その元ネタの「BANANA FISHにうってつけの日」は、いつか読もうきっと読もうと思い続けておりました。

タイトル通り、サリンジャー自選の短編9編。年代順のようです。なかなかの難物揃い。面白くないかと言えば、そんな事はなく、多くの作品で最後の3行にびっくりさせられる。そして、そのラストも含めて、さあどうぞと解釈してくださいね。と、ストーリーを引き渡される。困る。
数編読んで、作品の設定に微妙な類似があるのかな?(天才系の少年とか)とぼんやり思っていたのだけれど、“グラース家”の家族というのがサリンジャーの作品に登場する家族らしい。この短編の中にもグラース家の話が3編あるのだそうな。(私は4編かなと思ったのだけど)
短編だとしても、もう少し、説明があっても良いのではと思うが、このグラース家の設定は理解して読むのが流れなのかしら?

「バナナフィッシュにうってつけの日」1948年
シーモア・グラース(グラース家ですね。)と妻はビーチでバカンス。グラースは、多少病んでいるようです。かみ合わない会話、曖昧な返事。静かな狂気が漂いますね。バナナフィッシュは架空の魚。バナナをいっぱい食べて、入ったところから出れなくなる。ラストが突然。
シーモアグラースが、“もっと鏡を見て”と人名の掛け言葉らしい。

「コネティカットのひょこひょこおじさん」1948年
大学時代のルームメイト2人が、そこそこの年齢でおしゃべり。この一人の恋人だった男がウオルト・グラース(グラース家だ)で、彼の昔話の中で、女の子が足首を捻った時、童話のびっこの兎ひょこひょこおじさんと言ったのがタイトル。足首とおじさんのアンクルが掛け言葉。二人が酔っ払ってくるし、娘には空想の恋人が出てくるし、難解ですわ。

「対エスキモー戦争の前夜」1948年
最高に食えない友人とテニスをして、その帰り友人の家に立ち寄る。友人の兄が手を切って出てくる。
その後兄の友人が出てくる。二人が飛行機工事で働いていた。

「笑い男」1949年
スポーツ団のコーチの青年が、少年達に話す作中作が“笑い男”。誘拐され顔に穴を開けられた少年が義賊となる。妬まれて殺されるが、仲間と自然を大切にした。コーチは有望な好青年だが、見た目が良くない。自分のこととかけているのかな?物語はよくできていて面白い。

「小舟のほとりで」1949年
父親の陰口を聞いてしまった少年が、小舟に家出する。母親ブーブー(グラース家)が息子を慰めて、家に一緒に帰る。
陰口は、父親がユダヤ人(カイク)と言われたこと。
母親は、空に揚げる凧よ(カイト)とごまかす。

「エズミに捧ぐ」1950年
エズミの結婚式の招待状が届く。
エズミとの出会いを思い出す。彼女は、彼女が出てくる小説を書いて欲しいと頼む。
エズミと軍人との小説が書かれる。

「愛らしき口もと目は緑」1951年
男が若い女と一緒にいる時に、友人から電話がくる。妻が帰って来ないと延々と話続ける。ひたすら酔っ払いの話を聞いてなだめる。どうにか電話を切らせたが、又電話が鳴り、妻が帰った喜び。
若い女が妻だと思っていたが、違った。

「ド・ドーミエ=スミの青の時代」1951年
主人公は、偽名で通信の美術学校の講師になり、一人の修道女に執着する。
学校の運営は日本人。無許可で営業していたようで廃校になり、元の生活に戻る。

「テディ」1953年
天才少年テディ。船旅の間の輪廻転生などの死生観の会話。予測が、船から落ちること。妹か彼か、どちらが落ちたのでしょう。
日本の詩として俳句が紹介されている。

何というか、研究対象の文学という感じでしょうか。読み解ければ、気持ち良さげですが、自由に想像する余白があるとした方が気楽に読めそうですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新潮文庫
感想投稿日 : 2022年9月21日
読了日 : 2022年9月21日
本棚登録日 : 2022年9月21日

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