岬 (文春文庫 な 4-1)

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  • 文藝春秋
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真の意味での身寄りがあるようでない、
そこにいるようでいない、
ただ梢を揺らす木のようにして佇む若人の運命は非情でグロテスクだった
また彼の搾り出したかのような復讐は結局は空虚なものにすぎなかった

全体を通して「む、難しい、、、」と感じっぱなしだった
はっきり言えば『岬』に関しては、自分の中での感情移入および心の揺れは大して感じられなかった
もちろん大枠としての彼の「地理的にも血縁的にも閉ざされ縛られることへのどうしようもない憂鬱」のようなものは感じられるが、今の私には秋幸の心の機微は完璧には解読し難い
偏に想像力不足、偏に感受性不足なだけかもしれない、だとしたら本当に憂鬱だ

そもそもの文章構成も難解で、定型を破壊しているとも言えるが、単に読みづらいと感じる人も少なくないだろう
加えて、
「『卓袱台』という漢字が読み書きできるようになったことがこの本を読んで最もよかったと思える点である」、そう言いたくなるほど本文に登場する漢字でも躓いてしまった
おそらく私の漢字弱者っぷりも影響しているだろうが、それでも現代の漢字使いとは大きく異なる文章に翻弄されることも多々ありその都度調べてなんとか読み進めなければならなかった

ここからは短編ごとの感想を述べる
『黄金比の朝』
この短編を読み終えて初めてこの文庫本が短編集なことに気づいた(遅すぎる)
「女」は大義を掲げる兄から下らない人間の一面を引き出す要素なのではないか
やがて「ぼく」は自分も兄や社会と変わらない中途半端な存在であると理解し歓喜する

『火宅』
燃え盛る家屋のように男の運命は尽きる
あまりに複雑な人間模様に圧倒される
そして「彼」も同じく血と運命には抗えず、、、
兄だけが良い人

『浄徳時ツアー』
老若幼の要素がそれぞれある、私自身は若者の分類に入るからなのか、老人の方々の溌剌さに羞かしささせ感じ度々憤った
終盤にかけての畳み掛けがすごい
人生で何度も読み、振り返りたくなる作品だろう

『岬』
秋幸は「解放」されたのか?おそらく違うだろう、彼が異母妹と姦ることで彼は救済されるどころか憎っくき「あの男」と完全に同化してしまった
救済の術を知らないあたりも田舎ならでは、、、

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月16日
読了日 : 2023年1月15日
本棚登録日 : 2022年11月21日

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