人間が死ぬということ。
SFってカテゴリ作ってないからその他エンタメで登録しておくわ。ちょっと気になったので読んでみた。ミステリじゃないSFを読む機会って、今までなかったかもしれない。
森ミステリを読んできたから、こう、科学者が人間くさいことが新鮮でした。科学者だろうがやっぱり死ぬのは怖いんだなぁ。
こう、脳の信号を言語化する、人間の脳をそこまで分解してきたのであれば、もう少し自分に対して冷静であってもいい気はしたんだけどな。そこまで割り切って考えることができなかったから、だから彼女は「ここまで」だったのかもしれない、って今思った。
哲学における同一性の問題の思考実験みたいだなって。頭の中身をそっくりうつすことができたら、そのPCにも人権を認めるべきか否か、みたいな。マトリックスにも似てる。水槽のなかの脳。
結局「肉体」を持つことが、「人間」であることの条件の一つ、みたいな結論だったと理解しました。や、まあ、そこに異論は唱えないけどね。
ただこう、まあ、読んでてすっごい胃に来るというか、腹が立つというか、苛々するというか。書き方が上手いんだろうなぁとは思いました。結局なんだろうねぇ、自分は「唯一」であり「特別」であるということを知りたかったのかなぁ。要は「自己愛」だよな。肉体を持つ人間はどこかそういう面がある。肉体を持たない神様とかデータベースだとそういう面がない、だから「死」ってものをあっさり受け入れることができるのかな。主人公がどこまでも傲慢で、人間くさい話でした。
一番ぞっとしたのは物語中盤、「空白の三秒」「灰色」のくだり。ここはつまり、「死」というものをデータ上で理解した、ってことなのかなって。こうなる、という具体的な状態、自らが経験したことにより付随する感情を目の前に突き付けられたら、冷静ではいられないよなぁ。
正直もうちょっと酷い終わり方をいろいろ考えていたんだけど、どこまでも現実に即した絶望がありました。
最後の最後で《wanna be》が「死」を選んだ、という進め方はとても好き。
抜粋。《wanna be》の言葉より。
〈生きていることを特別視しすぎではありませんか。すべてはデータなのだから、終わったら終わったでいいのではありませんか〉
肉体を持たないテキストだからこその考え方。
ちょっと追記。六ページから抜粋。
百人の他人に見守られようと、人は孤独に死ぬ。そして、外界は人格の基盤だから、それをうしなう断末魔は、自然に動物的なものとなる。
ここにすべてが詰まってたような気がした。
- 感想投稿日 : 2016年1月30日
- 読了日 : 2016年1月30日
- 本棚登録日 : 2016年1月30日
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