ロリータ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2006年10月30日発売)
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主人公どヘンタイすぎワロタwww……と思いきや?感動のラストに魂が震える世界文学の傑作。解説:大江健三郎

海外でどうなっているのかは知らないが、日本においてはすっかり定着したロリコン=ロリータ・コンプレックスという言葉。その語源となった本作は、ロシア出身、アメリカで活躍したナボコフの出世作だ。彼はロシア語と英語で多数の作品を残した。この『ロリータ』は当初英語で書かれ、アメリカでベストセラーになった。その後スタンリー・キューブリックによって映画化されたり、日本ではロリコン・ブームと呼ばれる現象になるほど、強いムーブメントを起こした。現在では一つの概念として、ロリコンという言葉が当たり前に使われているのはご存知の通り。

そんな本作は、そのセンセーショナルな内容から各国で発禁処分を受けたりしたが、その後は文学的に評価されて、現在ではアメリカ文学の古典として認知されている。
自分が今回、興味を持ってこの小説に取り組んだ理由はそこだ。単純に性的な倒錯を描いただけでなく、ミステリーやロードノベルなどの複合ジャンルになっていたり、さらに時代風俗や言語遊戯などの要素を含み、統合的に文学として非常に評価が高いところに注目した。

さて、実際に手にとってみると、これはすごく読みにくい。ディティールの緻密さ、情報量の多さと、独白調文体が独特で、なかなか頭に入ってこない。さらに600ページオーバーの長編だ。ざっと通読するだけでもかなり読書的な体力が必要だった。しかし、読みにくさに反して、というかこれだけ読むのがつらかったにもかかわらず、本作は面白かった!

基本となる主人公の性的倒錯の物語について。これは予想の3倍以上は倒錯していて笑ってしまった。タイトルを忘れてしまったけれど、むかし深夜放送で見た、40代の中年男が14歳の女の子と恋愛関係になってしまったという(フランス?)映画が印象に残っていて(女の子がプレゼントしようと思って美術館で絵画を盗んでしまうシーンを覚えているのだけど、この映画どなたかご存知ありませんか?)、そういう感じの話かと思っていたら、甘かった!本作の主人公はそんなレベルではなく、マジのガチでド変態なのだ。前思春期の少女にあらわれる性的な魅力を「ニンフェット」と名付け、特定の個人ではなく、ニンフェットたちの魅力そのものを愛する30代後半の男の人生が語られる。その言動には終始ニヤニヤしながら見ているしかなかった。ところが、これが感動への伏線のようになっていて、以外にも結末は泣けるところへ行き着くのが本作最大の魅力だと思う。

本作がすごいのは、エロティックな倒錯小説というだけでなく、先にも述べたように多様な要素を含むところだ。全体を通して1940年代のアメリカの風俗小説ともいえるし、文学知識への言及や言語的な遊びが多用され、後半はロードノベルからミステリー的な展開となっていく。初読で読みにくいのはあまりに情報量が多すぎて頭がついていかないからなのだ。したがって、一回の通読だけでは多くの情報を読み落としてしまうため、物語の筋書きを知ったあとで、何度も再読する価値のあるタイプの作品といえる。というより、繰り返し読むことが前提になっているパズルのような小説といっていいかもしれない。

これらのことも含め、恋愛小説としても感動したので、まさに世界文学の名作にふさわしい傑作だと納得した。
巻末の解説には、先日亡くなられた大江健三郎さんの名が。小説家志望の若者に、本小説が参考になるとして研究を推奨していたのが印象深い。
後世への影響も計り知れないが、本作自体も未だに謎とされている部分が残っていて、まだまだ読み継がれ研究されていくのだろう。

※巻末の注釈は、再読用のものとして書いているようで、ネタバレをさけるならば、まず一度は通読してからがベストのようです。(本作にはミステリー要素がある!)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月23日
読了日 : 2023年4月18日
本棚登録日 : 2022年11月16日

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