知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 (文春新書 1168)

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  • 文藝春秋 (2018年8月20日発売)
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知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 (文春新書) 2018/8/20

自国第一主義に陥る世界。独裁化の進む政治家。
2018年11月13日記述
池上彰氏と佐藤優氏による対談集。
もうこれで文藝春秋から出ているものは4作品目かな。
2018年(平成30年)8月20日第1刷発行。

印象に残った点を紹介してみると

カジノがどういう場所であるのか、私の経験から言いますとこれは賄賂を渡すのにとても便利なんです(佐藤)

土木というのは主に地下室作りです。独裁者が悪事を働くのは地下室と相場が決まっていますが、快適な地下室を作る技術というのが北朝鮮はすごく進んでいます。
ミャンマーの軍事政権もそうですし、リビアのカダフィがゴルフ用のカートで移動していた広大な地下室も北朝鮮製でした。
アフリカや中東の独裁国家での需要がすごくあるんです。
残念なことに、人工衛星やドローンの眼も地下室には届かない。(佐藤)

イスラエルから兵器を買うことに対して、一部の有識者が「イスラエルとの軍事協力反対」と叫んでいます。
だけどもう少し冷静に考えてみる必要があると思います。
イスラエルの兵器は、アメリカと違ってブラックボックスを作らない。
ブラックボックスを作ると技術の進歩が遅れるという発想なんです。
全部オープンにして売ることによって、それより先の技術開発を急がないと
防衛産業が生き残れないという緊張感を持っているという点で、アメリカとは全然違うんです。(佐藤)

民主主義の制度によってトップが選ばれている国と独裁者がいる国とが長期に渡って交渉すると、独裁者のほうが圧倒的に有利だからです。(池上)

北朝鮮に対しては、2017年の4月の段階で、もうゲームセットだったのです。
核の脅迫が与件になってしまった。その後でアメリカがやっていることも、
ガダルカナルで白兵突撃を続けたのと同じ、転換するための手続きに過ぎないんだと、冷静に認識しておくことだと思う。
この戦いは北朝鮮に敗れた。いや勝てるとか、制裁によって北朝鮮を追い込めば変わるとか、幻想を持たないことが非常に重要です。(佐藤)

資本主義の強さは、人間の欲望を肥大化すること。
大量消費文明が入ってくれば、個人にとって家族や恋人との生活のほうが公的な生活より重要なんだという流れにすぐに変わります。
イランだってそうですよ。
どんな独裁体制でも、国民に完全にそっぽを向かれた場合には成り立たない。
そうすると、合理的な選択として、核が使えなくなる。
そういう方向を目指すべきだと思うんです。(佐藤)

(福田淳一財務次官、新潟県米山知事の件で)
エリートとされてきた彼らが劣化していると思うのは、うまく立ち回れなかった
という能力の問題だけじゃなくて、二人に共通して、女性をモノとしてしか見ていないからなんです。
相手をきちんとした人格として受け止めるという
訓練がなされていないから、おかしな対応しかできない。
偏差値だけ高ければいい、点数が取れればいいという価値観で生きてきてそれが行き着くところまで行き着いた結果なんです。(佐藤)

日本の大学で危機管理学部があるのはたったの三校で、
それが加計学園の倉敷芸術科学大学と千葉科学大学、そして日大なのです。
ちなみに千葉科学大学の危機管理学部の開講式では、安倍総理が挨拶をしています(池上)

それでも日大は大丈夫だという見方があります。危機管理学部は危機管理を教えるところではなく、存在そのものが日大の危機管理になっているからだそうです。
この学部は警察のキャリア官僚をたくさん受け入れています。
そもそも國松孝次元警察庁長官と警察OBの亀井静香元代議士が音頭を取って
創設されたのがこの学部です。警察を抱き込んでいるから、どんなに世論を敵に回しても、捜査されるようなハメにはならないというわけです。(池上)
→この池上氏の予測は的中した・・・最悪である。
内田正人元監督の立件見送りという報道があった。
日本国とはまともな法治国家ではないこと痛感する。中韓と大差の無い国家だ。

国会での証人喚問は司法権とは関係なく、国政調査権に基づいて行われています。
「答弁を控えたい」というのを認めてしまうというのは、国政調査権をないがしろにしていることなんですね。
だから喚問する側も、われわれは国政調査権に基づいてやっているのだから、きちんと答えてください、司法的な責任については別でやってください、ということを言わなくてはならなかった(佐藤)

証人喚問答弁の三パターン

サムライになる
→罪を全部ひっかぶる。霞が関では高く評価される。いずれ天下りも可能

千客万来
→関係者の名前をあげて、相対的に自分の果たした役割を薄めようというケース。 
これは意外と合理的な方法で、とくにメディアからのバッシングが分散して弱まるのが大きい。

男前にしてもらう
→表面的には完全黙秘を貫いているのですが、実は裏で検察にすべてしゃべっているケース
この場合、実質的に検察に全面協力しているわけですから、きわめて軽い処分が期待できます。

彼(菅義偉)は凄腕官房長官のように見られているかもしれませんが、
基本はゴリ押し一本ですから。
バッターボックスに立ちさえすれば、三振でもいいという、そういう感じ。沖縄問題を見ればわかりますよ。
引くことができない人なんです(佐藤)

読売の記者が会見で質問して大恥をかいた官僚の「守秘義務」ですが、
これはじつに曖昧な世界です。
実は局長以上には守秘義務というのは事実上意味がありません。
各省庁とも基本は局長に、何が秘密であるかを指定し、また解除する権限があるからです。(佐藤)

パリのテロリストの摘発では、容疑者を全部殺してしまったでしょう。
常識的には、生け捕りにしたほうが情報が取れるのに、殺してしまったのはなぜか。
生け捕りだと公判をしないといけない。公判を彼らの思想の宣伝の場にされる。
その後は、死刑が廃止されているから終身刑になる。すると刑務所の中では人権が保全されているから、毎日イスラム教室を開くことになる。
そこでテロリストをリクルートされることになってしまう。
逮捕現場に目撃者は警官しかいないから、
その場で殺してしまっても問題にならない。
死刑制度が無くなると、超法規的な処刑が起きるわけです。(佐藤)

二階氏の近くにいる人に「二階さんはどんな人?」と聞いたら、
「理論とか理屈とかと全くかけ離れた人です」と言っていました。
言葉を尽くして論理的に説明すると、二階氏は「で?」と言って
すべてがひっくり返る。「大した人です」と。(池上)

「小賢しい理屈を言うな」みたいな世界ですね。でもテレビに映っていないときは
半分は寝てるとか、飯を食いながら寝てるとか言われますね。そうなると半分幽明鏡を異にしている。
いずれにせよ、この政権はあまり頭がよさそうじゃないなとみんな思っていますよね(佐藤)

鈴木宗男さんが受刑者の社会復帰を支援する喜連川社会復帰促進センターに入ったとき、
ほぼ毎日手紙を送っていたんですが、政局などの重要事項があるときは白い封筒に入れ普段は茶封筒に入れていました。
封筒を見るだけで何が重要メッセージかわかるようにしていたんです。
そういう識別がインテリジェンスや政治の世界では非常に重要で、やはり犬笛が必要なんです。
可聴域が広い犬には聞こえる。(佐藤)

トランプの白人至上主義の根の深さを知るには「ヒトラーの秘密図書館」(文春文庫)を
読むのがいいでしょう。ヒトラーが読んだ本の分析なのだけれど、ほとんどが英米の白人至上主義の本なんです。
だからヒトラーの白人至上主義はドイツではなくて
むしろアメリカとイギリスから相当入っていることがわかる。
それはもともとヨーロッパのある種のスタンダードであって、それが少し粗雑になってアメリカで出てきている(佐藤)

多くの人がSNSの力を過大評価していて、たとえば、「アラブの春」のとき、SNSが大活躍したのはたしかですけど、本当に民衆を動かしているのは、いまだにテレビなんです。
なぜならアラブ世界ではまだまだ識字率が低いから。
だから、テレビ局を押さえるというのは、大切なんです(佐藤)

その国が発展するかどうかは、どれだけ書店があるか、その書店にはどんな本があるのかを見て判断しています。
2000年の夏にベトナムを取材したとき、猛暑の中、日陰で店番をしている青年がたくさんいて、どうせ居眠りでもしているのだろうと思って見たら、みんな本を読んでいたのです。
この国は発展すると思ったところ、案の定、タイを抜いてインドシナ半島最大の輸出国に成長しました。そのあと、ラオスにも行きましたがここでは誰も本を読まない。
そもそも書店が見当たりません。
結果、いまだにASEAN最低レベルの経済に甘んじています。
アラブ世界はどうかといえば、ほとんどの国で、モスクに行けばコーランを読んでいる姿に出会いますが、それ以外の本を読んでいるところは見たことがありません。
しかしイランは違いました。
イランには書店がたくさんあって、地図専門店のようなものまでありました。アラブ世界に比べて格段に知性の香りがするのです。(池上)

CNNも異常ですよ。朝から晩までトランプの話ばかり。
世界的に国際ニュースが減って、国内ニュースばかりになっているんです(池上)

今後、日中の関係は改善されると思います。それは習近平が独裁的な力を持ったからだというパラドキシカルな話ですね。(池上)

ただ、怖いことには、もし私が今、外務省にいるとしたら、独裁的でもいいから
時間のコストを短縮できる政治家を望みます。
そうでなければ、外交をやってられないから。(佐藤)

安倍政権の特徴は、お友だち内閣の性質がよく出て、あらゆるところで
公私混同することなんです。(佐藤)

それと、諸悪の根源はGPAという成績評価方式ですね。
GPAの高い学生にはろくなのがいない。
GPAを一定の点数にキープしないと問題があるのは、実は留学のときだけで、
就職活動で、企業はこんな点数は見ませんからね。(佐藤)

同志社大学は全科目がGPA算入になっているから、私の講義はあえて単位外にしました。
そうでないと優秀な学生を伸ばす厳しい教育を行うことができないからです。(佐藤)

高専の数学は三年までに複素数平面をやる。そのあと大学に合流するので、
通常の高校を卒業した学生は太刀打ちできない。
ただ決定的に国語と社会と英語が弱くなる。(佐藤)
それは明らかなんですが、ものづくりの能力はすごく高いです(池上)
だから結局は企業に勤めたときに管理職になれないんです。
マネジメントとか、国際展開ができない。
英語ができないから。
高専教育の問題はそこですね(佐藤)
東工大でよく言われるのは、東大出は会社の社長になる、東工大出は工場長になるということです。
しかしやはり大学で教えていると、世界史・日本史・地理をちゃんと勉強している学生がいない。(池上)

ただ、東京大学の世界大学ランキングの順位が落ちたと聞いて、東大の学力が落ちたと勘違いしている人がいっぱいいますし、
テレビでもそんな報道をしていますけど、それは気にする必要がありません。
あれは要するに海外の学術雑誌にどれくらい論文を投稿しているか、そしてそれがどれだけ引用されたか。または、留学生がどのくらいいるかとか、
学生と教授の比率、どれだけ英語の授業が行われているかということろで見ているだけなんです。
教授のレベルや学生のレベルで見ているわけではまったくない。
だからあれで順位が下がったって、騒ぐ必要は全然ないと、私は思います。
英米で作ったランキングで、向こうの大学の順位が高くなるような基準でつくっているわけですから。(池上)

だからバウマン工科大学とか、モスクワ国立大学とか、リストに入っていないでしょう。
あるいはモスクワ神学アカデミーとか、まったくランキングの外でしょう。
しかしそこの学生の語学力や思考力の強さは大変なものです。
やはりいくつもの国に行って、いつくもの大学で、すごい人を見ておかないと本当の学力はわからない。
たしかにアメリカにはすごい人材がいる。
ただ、平均的なアメリカの大学は、日本と比べて、素晴らしいということは全然ありません。(佐藤)

アメリカのエリート大学は有名なノーベル賞級の先生たちをいっぱい抱えているでしょう。
あの人たちは研究だけやって、教育はしなくていいんです。
だから学生がその大学に行ったからって、その第一線の先生の授業は受けられない(池上)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月11日
読了日 : 2021年12月11日
本棚登録日 : 2021年12月11日

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