無思想の発見 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2005年12月6日発売)
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感想 : 90
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日本人はよく、自分には思想もなく宗教もないと言うが、実のところ「世間」という思想を自覚なしに生きている。それは言語化されない思想のゼロ地点であり、般若心経の説く「空」のようなものなので、海外から宗教や思想を借りても矛盾なく、増えもしないし減りもしない、独特な無思想という思想である。ただ、明治維新から輸入された西欧近代的自我は戦後憲法となって社会の形を変え、旺盛な自然環境に支えられていた精神風土も自然破壊のせいでおびやかされており、日本的思想たる無思想の「世間」は弱体化しつつある。日本社会が世間を失ったら大変だなぁ心配だなぁというような事が書いてあった。

現代の若者は自分としての実感を持てないからこそ自分探しをしなければならないという話などはなるほどなと。本当の自分などというものはどこにもなく、今ある自分が自分なのだが、なんせ社会の変化も加速しており、頭ばかり使って体を忘れやすい時代ではすべてがあやふや。生活しているだけではこれが自分であるという実感が持てない。ましてや世の中、個人の自由と欲望こそが法なりの新自由主義だ。いくらでも頭でっかちになれる罠に満ちている。ある程度歳を取らないと養老先生の言う無思想という思想や「世間」のポジティブな価値は分かりづらいかもしれないけれど、自分がまだ若い頃にこれを読んでいたら色々納得できたかもと思わないではいられない内容だった。

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感想投稿日 : 2024年1月21日
本棚登録日 : 2024年1月18日

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