植物の茎を折る匂いがしている。足裏で黒く湿る土を踏む感触がある。わたしの内でひそかに息づいている瞑想の迷路、終焉の場所としての森を呼び覚ます書物だった。
森のなかでは日常は時間を持たない。記憶に住みついている心臓の鼓動のような足音を立て、外の世界へ、もうひとつの道へ進もうとするけれど、どの刻限へも移ろわないのだからどこへも行けない。照りつける陽光を分厚く遮る影のなかを冷え冷えと流れる仄暗い風。まるで海鳴りのように限りなくどよめき続ける。わたしは数百万の葉ずれの音の中に失われたものの名ばかりを聞いた気がした。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
英米
- 感想投稿日 : 2020年9月22日
- 読了日 : 2020年9月22日
- 本棚登録日 : 2020年9月22日
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