世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)

  • 中央公論新社 (2008年1月25日発売)
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二度の世界大戦を経て、西欧圏の経済的な地域統合の象徴であるEUから離脱という結果が出た先の英国の国民投票。この世界史の下巻は1500年から1999年、20世紀の終わりまでの概観なのですが、マクニール氏ならこの現状をどう見るのか、予測されたものなのかというところが読み終えて気になりました。
世界各地で勃興していた文明が、大航海時代が幕を開ける西暦1500年を境に西ヨーロッパが今までの均衡を破り、強烈な勢いで世界中に広がって行きます。さらに時代は18世紀後半の産業革命と西欧諸国の政府と国民が広範囲に及ぶ国内の再組織化を経験した民主革命により、19世紀中にはその優位性が益々高まっていきます。
近代から現代に至る過程は、評価が難しいだけに歴史の授業では、ちゃんと習った記憶がありません。教科書でも年代と出来事の羅列が殆どで、その流れや何故そうなったのか分からないままでしたが、この本を読むと目から鱗の如く理解できます。読み物のようにスラスラ読めるのが不思議ですが、筋が通って全体が見渡せるからなのかもしれません。
現代に至る地域紛争は民族・部族・宗教的反目が複雑に入り組んでいる中での大国の武器の供与があることやイスラム教における政治と宗教の結びつきの強さ、法典と世界経済の発展の事実の矛盾が引き起こすものなど、なるほどと思い読みました。地球規模の市場経済の拡大が既存の社会のパターンを捻じ曲げて行く先には、栄えるものと苦しむものとに分かれ収入の不平等が増大するさまがあり、貧しい国々は富と生活の向上に人口増加が追いつかないとあり、今まさにその事で、世界中が逼迫した局面に追われています。民族や宗教的対立からの紛争や内戦は古今東西絶え間のないものですが、移民が難しくなった現代では、シリアからの難民問題のように深刻な影響が周辺の国々に及びます。日本のことも所々記述があり興味深く読みました。徳川幕府を倒した後の維新に関わった日本人の対応について、‥西欧の優越に対して日本人ほど強力に対抗することのできた国民は他にいなかった…と絶賛されています。それに比較してイスラムの帝国はことに無力だったことが書かれており、現代に至る対立の構図が見てとれます。日本のように単一の民族が占める国家は、支配層と一般民衆が同一の民族なので、西欧からの圧力に対して一致団結して抵抗できたという有利な面があります。しかし、異民族で成り立っている国は、支配者が民族感情に訴えて抵抗するという手段は「期待するほうが無理だった」とありますから、古来ゲルマン民族の大移動に象徴されるような異民族との軋轢が生み出すものの大きさや統一の難しさに気がつきます。
過去の歴史から学ぶものは大きいのですが、マクニール氏が最後に述べているように、‥人間の計画的な行動により変化の道が広く開かれている未来には、すばらしい可能性とそれと同じくらいの恐ろしい破滅がひそんでいる、とあるのが現代を端的に物語っていて、地球の行く末が案じられるところなのでした

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ウイリアム・H・マクニール
感想投稿日 : 2016年6月26日
読了日 : 2016年7月7日
本棚登録日 : 2016年6月26日

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