マグマ

著者 :
  • 朝日新聞社 (2006年2月7日発売)
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感想 : 41
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火山大国日本で、何故地熱発電の開発が進まないのか?という素人的自問を持って開いた本書の主人公・投資銀行の買収ファンドのターンアラウンドである妙子が同じ疑問を持ちながら地熱発電の推進及び高熱岩体発電の実用化を進めて行くため、私の関心を主要テーマとして物語が進行し、地熱発電の魅力と地熱発電の技術的・資金的困難性を深く理解することができた。もっとも、地熱発電の困難さと環境問題との関係は、それを取り巻く政治的欺瞞が絡まり、地熱発電ではなくむしろ原発の危険を暴露するものでもある。真の意味で環境に優しい発電とは何か?

原子力発電所が稼働停止しても電力供給が不足しているとは言えず、むしろ稼働していない状態での維持費用や廃棄物の処理方法が問題となして現実のものとなっている現実を考えれば、この小説を読み、読者が考えるべきことは当時より火急の課題として眼前に迫っている。もともと、イギリス人の英語の先生と原発問題について議論をする中で、代替エネルギーについて話題が上り、温泉大国日本では何故地熱発電が普及していないのか?と聞かれ、そもそも地熱発電がどういうものかもよく知らなかったことろ、夫から本書をお薦めしてもらうことに。

地熱発電について存在はなんとなく知っていたが、馴染みがないことに対してすら疑問を抱いてこなかったことが恥ずかしくなった。本書にも何故これほど地熱発電が脚光を浴びないのか?との疑問が繰り返される。東日本大震災前の当時原発推進の裏で地熱発電が使い物にならないとのレッテルを貼られたとの事実の有無は定かではないが、現在の目から見ても、原発の発電単価が最終処分までの費用を含まない見かけだけのものだったことは確かであろう。私たちはいま、社会的選択をすべき時であり、その選択肢をもう一度見つめ直すべき時なのかもしれない。

地熱発電って何だろう?何故日本では地熱発電が普及しないのだろう?我々は原発とどう向き合っていけばいいのだろう?といった、エネルギー問題の素人的疑問が浮かぶ人には是非お勧めしたい。2006年出版であり、2011年3.11を先取りしたテーマであることが、真山さんの小説家としての先見性が表れている。また、外資系企業で働く女性の苦労も滲み出ており、感服。所々、真山さんが選んだ表現や選択が好きになれない部分もあるが、補助線として、男性社会で生きる2人の女性の生き方が多角的な視点から語られている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月8日
読了日 : 2021年7月8日
本棚登録日 : 2021年7月8日

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