⚫︎受け取ったメッセージ
誰でも虫になり得る
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
これはお父さんとお母さんを殺しちゃうわ、そうですとも。
朝、目をさますと巨大な虫に変っている自分を発見した男―― グレーゴル・ザムザ。第一次大戦後のドイツの精神的危機を投影した世紀の傑作。
ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。
⚫︎ネタバレあらすじ
「グレーゴル・ザムザはある朝、なにやら胸騒ぐ夢がつづいて目覚めると、ベッドの中の自分が一匹のばかでかい毒虫に変わっていることに気がついた。」
それまで、家族のために身を粉にして働いてきたグレーゴル。妹は最初は甲斐甲斐しく世話をしていた。母はグレーゴルの姿を見ることもできない。父はグレーゴルに驚いた母が倒れたことに腹を立て、リンゴを投げつけ致命的な怪我を負わせる。
グレーゴルが働いていたうちは、三人とも働かなかったが、グレーゴルが働けなくなると、仕事を見つけてきて働き出す。
ついにグレーゴルが邪魔になった。グレーゴルが死んで、三人はそろって外出し、これからの生活が希望に満ちていると感じられる。父母は娘の健康的な身体を見て、新しい夢と誠意とを保証してくれるもののように思う。
⚫︎感想
グレーゴルは唐突に虫になるが、「虫」になってしまうというのは、家族にとって、社会にとって、自分が「役に立つ」存在から逸脱するというメタファーだ。そのような存在になってすぐに感じる不安、孤立感、無力感、疎外感。自分の好みも変わり、生活スタイルも変わる。妹は最初こそ彼へのそれまでの恩を感じて甲斐甲斐しく世話するが、実害が及ぶと真っ先に、彼を「お払い箱」にしなければならないと主張する。グレーゴルが、父親になげつけられたリンゴが原因で死んだ後、三人は晴々としている。
誰でもグレーゴルのように、例えば歳をとって体が動かなくなると働けなくなるし、怪我をしたら誰かの手を借りなければならなくなる。さまざまな負の気持ちを体験する。特に老化は治ることも止めることもできない。受け入れ、世話になるしかない。だれでも経験することになるだろう状態だ。反対に、父、母、妹の気持ちも、少なからず自分の中に湧いてくる感情なのではなかろうか。特に家族は、世話する相手と距離が近いため、より感情的になりやすいだろう。グレーゴルだけでなく、ザムザ一家それぞれが「変身」してしまうのだ。
人間の本音や本質をを描いた作品なので、時代を超えて読まれ続けるのは納得である。
- 感想投稿日 : 2023年12月1日
- 読了日 : 2021年12月1日
- 本棚登録日 : 2023年12月1日
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