言葉と悲劇 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社 (1993年7月5日発売)
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本棚登録 : 191
感想 : 8

柄谷行人の講演集。

・個別性と単独性の違いを語る箇所が印象的。

単独性は、普遍性と対になる。
個別性は、一般性と対になる。

近代小説とは、個別の私が、一般化するものだという。つまり近代小説ではある個人の生活が現象学的に描写されるが、読者はある個人の生活描写を読むことで、その個人の体験を自分にひきつけて読む。この時、小説に書かれた「この私」の単独性は消失する。近代小説は、1回限りの単独の出来事を書いているようで、実は、誰にも共有し得る個人の事柄しか書かれていないし、そうとしか読まれ得ないのだという。単独性を描けないことこそ、近代小説の限界となる。

・ドストエフスキーの小説について語る箇所も印象的。

普通の小説では、作者は小説の語り手(1人称)か、小説を神の位置から客観的に眺めている(3人称)。ドストエフスキーは特殊で、虚構である小説の中に作者自身もいる。作者も小説の登場人物の一人に過ぎない。かといって、作者はしゃしゃり出てくるわけではない。例えば『カラマーゾフの兄弟』では、小説の語り手は、カラマーゾフ家のある村にいる。村で起こった出来事をその場で見て、読者に語り伝えているという体裁をとっている。ドストエフスキーの小説に出てくる登場人物は、作者の分身ではなく、虚構の世界にいる、作者とは完全に別物の他者である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代思想
感想投稿日 : 2010年8月23日
読了日 : 2010年8月23日
本棚登録日 : 2010年8月23日

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