カント入門 (ちくま新書 29)

著者 :
  • 筑摩書房 (1995年5月20日発売)
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感想 : 84
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 すでに鬼籍に入っているカント研究者による、ちくま新書初期のベストセラー。カント代表作『純粋理性批判』は既読だが、僕のような素人が一度や二度読んだところで理解できるはずもなく、またすぐに内容を忘れてしまう。本書のような哲学者の解説書は原著にあたる前に読むのが普通だと思うが、原著通読後に復習することによって、理解と記憶の定着が図られるのではと思う。
 
 本書の白眉は、「カントの仕事の本質は弁証的理性がもたらす欺瞞、すなわち『仮象』を批判することにある」という主張を一貫して保っていることだと思う。この「仮象」という言葉は本書のキーワードであり至る所で出てくるのだが、これにより論理に一本の軸が通され理解を助けてくれる。例えば、
- 空間と時間という本来主観(感性界)に属する性質が、客観的世界(理性界)に属するかのように装わせる「仮象」。
- ある命題が実質的には仮言命法であるのに、形式的に定言命法であるかのように装わせる「仮象」。
…のように、仮象批判の形でカントの理性批判が説明できてしまうのだ。

 このような仮象の原因とされる「理性」だが、この理性を有することによって、人間は感性界のみならず理性界(叡智界、物自体)にもリーチできる。まさにそのことによって人間は①自由意志を持って因果を自らスタートさせることができるし、②道徳法則(理性界)を参照して何らの前提もなしに定言命法を行うことができるのだ。本書ではこの2点が同一の図式で示されており、大変理解がしやすいものとなっている。

 そして、この自由と道徳が互いに他の根拠であるという「自律」が、他の何にも依拠することなく、原因と結果を一つの連環で繋ぐ「宙吊り構造」を持っていることが強く僕の興味を引いた。ゲーデルやマルクスを扱う知識人の著作(ダグラス・ホフスタッターや岩井克人)にこの宙吊り構造の話が出てくるのだが、この構造は(逆説的ではあるが)脆弱であるが故に強い。全く分野の異なる知識人たちが全く異なるアプローチでこの構造にたどり着いていることに、強い驚きを禁じ得ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月13日
読了日 : 2023年2月27日
本棚登録日 : 2023年2月27日

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