アリスの国の殺人 日本推理作家協会賞受賞作全集 (42)

著者 :
  • 双葉社 (1997年11月1日発売)
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感想 : 11
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夢の中の『アリスの国』でアリスと結婚式を挙げる最中にチェシャ猫殺害の容疑をかけられた綿畑克二。
現実世界では新しい漫画雑誌創刊のために奔走する克二が鬼上司の編集長殺人事件に巻き込まれていく。

…なんだか小林泰三さんの「アリス殺し」に似た設定。いや、この作品は昭和57年の日本推理作家協会賞受賞作なのだから、「アリス殺し」の方が「アリスの国の殺人」に似た設定というべきか。

当然『アリスの国』の殺猫事件と現実世界の編集長殺しには何かしらのリンクがあるのだろう、それがどこでどうリンクするのか、とそれを楽しみに読み進めた。

ただ『アリスの国』編はなんとも読みにくい。そもそも「不思議の国のアリス」自体、不思議なルールや不思議な秩序や言葉遊びがふんだんに盛り込まれている上、この『アリスの国』では有名コミックに登場するキャラクターたちがその言葉遣いそのままに物語を引っ掻き回す。
『アリスの国』の勝手なルール、勝手なキャラクターたちに振り回される克二はこのままやってもいないチェシャ猫殺しを負わされ死刑になってしまうのか。

一方の現実世界での克二もまた心許ない。彼には酔うとどこでもいつでも寝てしまう悪い癖がある。
たとえ原稿をすぐに受け取らなければならなくても、受け取った原稿をすぐさま印刷所に回さなくてはならなくても、眠気の方が勝ってしまうのだ。
そのため酔っては眠り、一瞬目覚めるものの再び眠りに着き…を繰り返す一夜の中で、遠く離れた軽井沢にて編集長が殺されているのを知るのだが、こういう状況だけに克二が見たものそのままを信じるのはいけないのだろうなと分かる。

先日読んだ「深夜の博覧会」で少年時代の那珂一兵が探偵役として活躍していたが、その那珂一兵がこの作品では有名漫画家として登場する。
なのでてっきりこの作品でも那珂が探偵役として事件を解決するのかと思いきや、なかなかそういう展開にならない。それどころか最後に意外な形になっていた。

『アリスの国』でのドタバタ振りと対照的に、現実世界での事件の行方は混沌としてくる。
だが二つの世界で起きた二つの事件には共通点があり、そのトリックは面白かった。現実世界の方は割と早い段階で気付くが、『アリスの国』ではありえないようでありえるこのトリックを上手く作っていた。

ただ結末は意外とシュール。克二のキャラクターが最後まで好感持てなかったので良いけれど、最終的にはありがちなリンクかとちょっと期待外れだった。
この辺りは小林泰三さんの方が上手い。あちらもかなりブラックだったように記憶しているけれど。

ただ最近このシリーズの続編が出たらしいのでスナック<蟻巣>の面々のその後を知るのに読んでみようとは思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・名探偵
感想投稿日 : 2019年8月13日
読了日 : 2019年8月12日
本棚登録日 : 2019年8月13日

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