ピーク時(1996年)からの17年間でじつに36%も売上が落ち、しかも下げ止まりがまったく見えない日本の出版界。
寒風吹きすさぶその現状を、本の流通・販売にも造詣が深い(元書店員でもある)ベテラン・ライターが、改めてじっくりと考えてみた本。
著者が挙げる「本が売れなくなった要因」は、ブックオフの台頭、ネットとスマホの普及、少子高齢化の進行など、誰もが思い当たることばかり。なので、「そうだったのか!」と膝を打つ驚きはほとんどない。
ただし、だからつまらないかといえばそんなことはない。ブックオフの台頭、スマホの普及などがどのように本(新刊書)を売れなくしていったかが、改めて整理されて説明され、ことの本質がクリアに見えてくる面白さがあるのだ。
とはいえ、私が知らなかったこともけっこう書かれていた。
たとえば、最近の本の初版部数が少なめなのは、「本が売れないから」だけではなく、印刷製本技術の革新にもよる、という指摘。
《皮肉なことに、大量かつ高速で印刷できる機械は、少部数の印刷が苦手だった。少部数つくろうとすると、どうしても1部あたりのコストが高くなった。ところが技術革新により、少部数でも安く印刷・製本できるようになった。だったら、いままで半年かけて3000部売っていた本は、最初に1500部だけつくって、あとは500部ずつ3回増刷すればいい。そう考える出版社が増えた。》
なるほどなるほど。
また、街の小さな本屋さんがどんどん淘汰され、書店がアマゾンとメガストアに収斂されつつある現状についても、わかりやすく解説されている。
著者の文章は、「ライターの文章」のお手本のようだ。読みやすくて平明、無色透明で、けっして自分の個性を読者に押し付けてこない文章(ゆえにどんな色にも染まり得る)なのである。
本書のもう1つの価値は、本が売れない主因は「読書離れ」ではないことを、データから改めて浮き彫りにしている点にある。
日本人の読書量(必ずしも「本」ではない、文字を読む量だが)は昔に比べて落ちておらず、本や雑誌を「買って読む」量が激減しているだけなのだ。
エピローグでは、“どうやって「本の文化」を守っていけばよいのか?”という、著者が考える処方箋が開陳される。ここも、同意するかどうかはともかく一読の価値がある。
- 感想投稿日 : 2018年10月8日
- 読了日 : 2014年12月27日
- 本棚登録日 : 2018年10月8日
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