氷 (ちくま文庫 か 67-1)

  • 筑摩書房 (2015年3月10日発売)
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本棚登録 : 1280
感想 : 101

基本的には優しく一途だが本質的には相手のことを理解しておらず、自分の気持ちが届かないと相手の責任だと拗ねてしまう男と、自分が求めずとも周りが放っておかずに常に拠り所となる特定の相手が存在して、先の本命が拗ねて離れて行った時にはその時々の相手に依存できる女との、別れては復縁を繰り返す愛の物語。現代的に言えばこんな感じの二人の関係を、世界の滅亡が迫ると共にお互いが確かめあっていく。

読み終えてみてこのように感じた。この感じ方は正しいか正しくないかは人それぞれありそうだが、なにせ読んでいる途中でちょっと気を抜くと場面が変わっていたり、(物語の中の)現実か非現実か戸惑うこともあり、登場人物のセリフや行動すら不確かなようにも思えたからだ。

反面、タイトルでもある「氷」はこの物語の中では確実で絶対のものであり、世界が氷に覆い尽くされていく。ただこれも物語の後半あたりから急速に展開されていくもので、そこまでの話は主人公がどこまでも少女を追い求めていく内容である。二人の関係性は一時として穏やかに落ち着くことがないように、物語全体としても雪や夜など寒々しく不穏な印象が強い。不思議な没入感はあるのだが、個人的にはなかなか読み通すのに苦労した。だが、心の中には強く残る。この世界観に酔いしれるのが良いのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月20日
読了日 : 2023年3月19日
本棚登録日 : 2023年3月19日

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