人形式モナリザ (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社 (1999年9月6日発売)
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感想 : 93
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 再読。
 なんて素晴らしいと思ったのは、申し訳ないがミステリのことではない。仕切り直しのVシリーズはなんてことのないように始まっている。
 場所は長野の人形館、避暑地に訪れた阿漕荘の面々は、殺人事件に巻き込まれる。乙女文楽の公演中、公衆の面前で起きた2つの事件。盗まれた絵。2年前に殺害された夫……などなど事件は不思議ばかりで開かれて行く。ミステリとしての驚きは特にないが、最後のオチで笑ってしまった。有り得ないとかではなく、存在そのものがおもしろい。
 最も美しいと感じたのは瀬在丸紅子の存在だ。彼女の思考は果てしなく、唐突で、そしてとても美しい。そのテンポに残念ながら私は付いて行くことができない。
 未だ掴めない林の頭脳もここで浮き上がる。
「神様の声が聞こえるな」「いい加減にしろ」
「神様のこと?」「たった今、見捨てられたわ」
 この掛け合いのおもしろさは、たぶん登場人物の誰にもわからないだろう。それこそ神様のみぞ知る、のだろうか。
「誰が私を騙したの?」
「紅子さんを騙そうとしているのは、紅子さんですよ」
 人形という存在を考える。人形と人。たまたまだったがちょうど『私たちは生きているのか?』のあとに読んだため、最初よりも考えさせられることが多かった。人形と人、人間とウォーカロン、生きているか死んでいるか。失われることは悪いことではない。ではこの時代の生と死は? 改めて考えたくなる一冊だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2017年5月20日
読了日 : 2017年4月17日
本棚登録日 : 2017年5月20日

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