ケインズに代表される国家による経済統制とハイエクに代表される自由市場によるガバナンスという2つの経済思想の相克として20世紀の世界史のパースペクティブを華麗に描き出したダニエル・ヤーギンの「市場対国家」は、自身の読書体験の中でも色あせない記憶として強く印象に残っている。
さて、本書はもともとエネルギー問題の世界的権威であるダニエル・ヤーギンによるエネルギーを軸とした近現代史の傑作である。
本書では、
・新興国を中心に成長する世界の需要を満たすエネルギーが今後もまかなわれるのか?まかなわれるとしたら、どのようなコスト・テクノロジーが用いられるか?
・世界が依存する石油、天然ガス等のエネルギー源調達の安全保障はどのように護られるのか?
・気候変動などの環境問題への懸念は、エネルギーの未来にどのような影響を及ぼし、エネルギー開発は環境にどのように影響するのか?
という3つの主要論点に対する明快なパースペクティブを得ることができる。
上下巻1,000ページの大著でありながら、これだけの内容が3,000円で知ることができるという点に、驚きを禁じ得ない。何よりも面白いのは、我々が既知のものとしてきた近現代史が、エネルギーという補助線を引くことで、よりシャープなものとして深い理解をすることができるからである。その点で、「市場対国家」同様にヤーギンは優れた歴史家である、と断言できる。
エネルギー問題に直接の関心があろうとなかろうと、これ1冊でたいていのエネルギー問題に関する論点や歴史を押さえることができる名作。
- 感想投稿日 : 2018年8月14日
- 読了日 : 2018年8月13日
- 本棚登録日 : 2018年8月6日
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