【定本】災害ユートピア (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズⅢ)

  • 亜紀書房 (2020年9月18日発売)
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地震、洪水、大火災、そして9.11のようなテロリズムなどの暴力に出会ったときに、市井の人々が利他的に相互を助け合いユートピアともいえるコミュニティをどのように構築するかを描いた論考。本書の意義とは、災害によって極めて民主主義的とも言えるユートピアが立ち上がる可能性があるという点から、災害のもたらす影響をポジティブに解釈しなおそうとする点にある。

もちろん、全ての災害でこのようなコミュニティが発生するわけではなく、災害の規模が圧倒的すぎれば、そのようなコミュニティが発生する余力すら失われるのが実態ではある。とはいえ、被害がそこまでではない場合には、様々な災害後の様子を丹念に辿ることで、そうしたコミュニティが自然発生している点が浮かび上がってくる。

また、そうした相互扶助的なコミュニティと対局にあるのは、政治・官僚エリート層が市井の人々は災害においてパニックになるに違いないという妄信から、市民同士の救助活動を禁止したり、ひどい場合にはニューオリンズを襲ったハリケーンのカトリーナの場合にように水害から逃れようとする黒人の住民を”治安を乱す”として軍・兵士らが銃殺する二次災害を巻き起こすことである。

全ての災害を本書が示すようにポジティブに解釈することは正直難しいとは思うものの、災害時のような緊急事態においてはトップダウン型の官僚組織よりも、市井の人々によるボトムアップ的な相互扶助の力を活用した方が結果としてうまくいく、というのはおそらく一つの真実であり、災害時の市民活動のあり方を考える際に、非常に参考になる書籍であると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2021年8月15日
読了日 : 2021年8月15日
本棚登録日 : 2021年8月7日

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