ソ連からアメリカに亡命したロシア人批評家二人によるロシア料理指南書。レシピの分量は大雑把であるが、調理の心構えは大真面目である。なぜなら、それこそが彼らの望郷であり、文明批判だからである。進歩的な食事の制限や、栄養の管理を嘆き、伝統的な食欲の回復と美徳の復権を説く。ここで紹介される料理の数々は、もはや手に入らない食材に想いを馳せつつ、あるもので間に合わされた「亡命ロシア料理」である。そのナイーブで、センチメンタルな口当たりは、ロシア料理を近づける外連味であると同時に、求める本物のロシア料理をかえって遠ざけてしまうような、自虐味と、滑稽味でもある。なお、随所にみられるロシア人のキノコへの思い入れが非常に印象的であった。亡命ロシア人の文明批評の妙味、たんとご賞味あれ。
「ヤマドリタケはずんぐりして善良な魂をもっているし、アンズタケはコケティッシュでせっかちな魂を、アミガサタケはしわくちゃの魂を、カラハツタケはスラブ派の魂を持っている(たぶん、古きよきロシアを愛する農村派作家のウラジミール・ソロウーヒンは、前世ではカラハツタケだったのだろう)。魂なしで生えているのはマッシュルームだけである。」
「いい料理とは、不定形の自然力に対する体系の闘いである。おたま(必ず木製のでなければならない!)を持って鍋の前に立つとき、自分が世界の無秩序と闘う兵士の一人だという考えに熱くなれ。料理はある意味では最前線なのだ・・・。」
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- 感想投稿日 : 2018年5月12日
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- 本棚登録日 : 2018年5月12日
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