そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

  • 宝島社 (2013年9月5日発売)
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2021年1月28日読了。

都内の大手建設会社に務める野々宮良多。
社内では、建築設計本部という花形部署でリーダーとしてチームを引っ張り、42歳という若さで次期部長後継者と目されている。
住まいは地上30階建ての高級高層マンション。
若く美しい妻・みどり。
父の良多が卒業した名門私立小学校への受験を控えた息子・慶多。

日々忙しくプロジェクトに追われているが、仕事も地位も家庭も手に入れ、全てが順風満帆な人生を送っていた。

しかしある日、慶多を出産した病院から連絡が入る。
その内容は『お子様を取り違えてしまったかもしれない』という思いもよらないものだった。
病院からの要請でDNA鑑定を行った結果、慶多は2人の本当の子供では無い事が判明する。
6年間、育て共に過ごしてきた自分の子が本当の子ではない…
動揺とショックを隠しきれない2人。

病院側と弁護士立会の元、取り違えられた両親との面会。
現れた相手は、良多とは対称的な男・斎木雄大と、その妻・ゆかり。
車体に『でんきのドクター』と印刷された年式の古い軽ワゴン車に乗り、ヨレヨレの服装・腰が低く威厳の無い佇まい。
妻のゆかりは、目の大きな美人で雄大とは不釣り合いな程だが、身なりはみすぼらしく、裕福な家庭でないのは一目瞭然。
事の重大さを感じていないかの様な雄大のあっけらかんとした態度に、辟易する良多。

子供たちの"交換"に向け、両家の交流が始まる。
そこに連れてこられた斎木家の長男・琉晴は幼い頃の良多にとても似ていた。
そして、女の子に間違えられるほど目が大きくてかわいらしい慶太には、斎木家のゆかりの面影が…。


是枝裕和監督の映画『そして父になる』のノベライズ作品。

子供の取り違えというテーマを通して
家族の形、親子とは何なのか
生みの親と育ての親、大事なのはどちらなのか
という事を考えさせられる作品だった。

血の繋がりは絶対的なもので、生物学的にも親子であると証明されたとしても
産まれたばかりの時から6年間もの時間を共に過ごせば、愛着ではなくもはや愛情が芽生えるし、血の繋がりよりも深い親子の絆が生まれると思う。

本当の親に容姿は否が応でも似てくるが、癖や仕草や考え方なんかは育ての親と過ごした時間・育ってきた環境等で培われていくもの。

親の葛藤も計り知れないが、まず何よりも子供が可哀想だと思った。
6歳という半ば物心ついた子達に徐々にとはいえ、訳も分からず知らない人達をお父さんお母さんと呼びなさいと言われ、一緒に暮らしてきた家族から離されてしまう。
初めは強がりながら反発したり順応しようともするが、ふとした時に『パパとママの所に帰りたい』と涙ながらに吐露するシーンは胸が締め付けられた。

仕事一本で、家庭や子供との時間を蔑ろにしていた野々宮良多がある事に気付き、息子・慶多と対面するラストの場面では涙を抑える事が出来なかった。

斎木雄大は大人の視点で見れば、下衆で冴えない小さな電気屋で働くただのみっともないおっさんに見えるかもしれないが
何よりも子煩悩で、子供と同じ目線で物事を見て、一緒に遊び楽しみ、壊れたオモチャもすぐに直せるヒーローみたいな存在で、子供からすれば正に理想の父親像だと思う。
自分も、大人が描く理想の父になるよりも、子供に好きになってもらえる父親を目指したいと思わせてもらった。

読了後に映画版も鑑賞し、面白かったのだが感動したのは本書。
映像では語りきれていない心理描写や細々とした事がしっかりと描かれていた分、感情を揺さぶられた。

野々宮良多を演じた福山雅治も良かったが、斎木雄大を演じたリリー・フランキーはハマり役。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年1月31日
読了日 : 2021年1月31日
本棚登録日 : 2021年1月20日

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