鉄は魔法つかい: 命と地球をはぐくむ「鉄」物語

著者 :
  • 小学館 (2011年6月1日発売)
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感想 : 26
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光村教科書6年生紹介本

私はノンフィクションよりも小説を多く読むのですが、児童向けのノンフィクションを読んで非常に素晴らしい本に出会っている。
こちらは小学生向けではあるが、私のようなこの世が何で成り立っているかわかっとらん大人にも非常にわかりやすいし、著者の語り口もとても良い。

気仙沼で牡蠣の養殖をしている漁師である著者畠山重篤が、海の生物の成長には鉄が欠かせないということにたどり着き、研究したり森の土壌を良くする運動を行った。鉄がどんな役割をしているのか、鉄に関する研究、そして実際に行われている研究や活動のことが児童にも分かりやすく書かれている。
本書を書き上げて出版を待つ間に東日本大震災が起きて著者のご家族にも牡蠣養殖場にも被害が出たのですが、少しずつ回復している様子を見て、再会の希望も込めて出版となったということです。
現在では養殖も回復中、植樹運動も続いているようです。
https://kesennuma-kanko.jp/oshietesensei-kakiyoushoku/

なお畠山重篤は朝ドラ『おかえりモネ』の祖父のモデルといわれているそうです。(みてなかったのでよくわかりませんが…)
https://agrilab.kyodo.co.jp/2021/06/post-240.html

❐鉄 生命体と鉄の関わり
・呼吸のシステム。赤血球にはヘモグロビンが含まれていて、その中心に鉄がある。鉄は、肺から取り入れた酸素をくっつけて体中に届ける。地が赤いのは酸素が鉄にくっついているから。
 なお、青酸カリを飲むと死ぬのは、鉄が青酸カリのシアン化合物とくっついてしまって酸素を運べなくなってしまうから。
・地球は「水の惑星」と言われるが、地球の質量のうち水は0.03%。そして鉄は30%を占める。そうだったの!?地球の内部の中心に鉄が集中している。
 宇宙のしくみを男性、陽子、中性子でみると、鉄とニッケルが安定していて、鉄のほうが作りやすい。ビッグバンでできたのは水素、ヘリウム。宇宙でできる物質は年齢とともに重たいものになっていく。そこで最後にはすべて鉄になってしまうんだそうだ。…よくわかりません(-_-;)が、この宇宙は鉄を作るための宇宙なんだ、ということなんだって。

❐森 森は海の恋人
https://pride.kesennuma-kanko.jp/slow-city/activities-01/
森を伐採すると、土壌が代わり、海への要素が変わる。特に、森林から鉄分が供給される海の生物は豊かに育つ。そこで著者は海に流れ込む流域の森の土壌を調べたり、植樹して海を豊かにする「森は海の恋人」活動を行っている。
 これも国単位でやって欲しいですよね。
・麦が荒れた土地でも栽培できるのも鉄が関係する。アルカリ性の土壌では植物は鉄を吸収することはできない。麦の根っこは、鉄を包み込むムギネ酸を発生することだできて、ムギネ酸に包まれて鉄が麦に吸収される。そこから、ムギネ酸の合成に関わる物質が解明されれば、荒れ地でも植物を育てられるかもしれない。
・温暖化と寒冷化のこと。二酸化炭素の増加が地球温暖化の原因なら、二酸化炭素が減れば寒冷化する。
 海中に鉄が増えて、植物プランクトンが大量に増え、光合成により大気中の二酸化炭素が減ると、寒冷化につながる。
 これ温暖化対策として進められないんだろうか。

❐海の中の鉄
・地球ができた46億年前には二酸化炭素で覆われていて、海の中には鉄がたくさん溶けていた。35億年前からに生物が光合成を行うようになり、葉緑素ができるには鉄が必要になった。こうして光合成により酸素ができて、海水中の鉄は参加されて大きく重くなり、海底にオチていった。そうして海の水には鉄は無くなった。
・海には鉄がなくなったが、陸地にはたくさんある。
 海の中の鉄の一因に中国大陸からジェット気流で運ばれた黄砂がある。黄砂は天候によっては地球一周くらいしてしまうらしい!
 黄砂って砂っぽくなるしアレルギー発症するし困ったもんだと思っていたら、地球の生物育成には欠かせなかったのか…。
・沈没した鋼鉄船が魚の棲家になったり階層が生えたりしている、というのはニュースでもみるが、これも鉄が溶けて生物の成長を助けているため。そのため計画的に鋼鉄製の廃棄物を海底に沈めることもある。
 ここで「戦争のときに沈められた船に魚たちが増えて様子を見て、英霊に手向けられた花のようだった」と書かれている。沈んだ船を怖いととらえるのではなくて、新しい海の命に囲まれ、その海の命が陸も豊かにすると考えるのは良いなあ。
 なお、飛行機はジェラルミンなので、鉄のようには生物が育たないんだそうです。
 日本の農業、漁業の研究でも、鉄と炭を混ぜた団子をヘドロの溜まった海に設置したら、その海域が綺麗になり、生物が育つようになった結果が出ている。科学的には、ヘドロと鉄の成分が…ということのようです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然・動物・恐竜 ・科学・数字
感想投稿日 : 2023年10月25日
読了日 : 2023年10月25日
本棚登録日 : 2023年10月25日

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