★★★
モスクワに現れた悪魔の一味。ご主人、斜視の小男、しゃべる猫、裸の女。彼らは手始めに作家会議長の首を飛ばせ、詩人の気を狂わせると劇場に乗り込む。ばら撒かれた札束は偽物に代わり、与えられた服を着た女性は素っ裸で街へ出て、モスクワを混乱に陥れる。
悪魔一味は謎を突き止めようとした劇場関係者を遠方に飛ばし、首を引っこ抜いたりくっ付けたり、偽札を握らせ連行させたり、姿を消させたりとやりたい放題。
ここでやっと我らが主人公”巨匠”登場。
巨匠は秘密の恋人との隠れ家で、哲学者ヨシュア(イエス・キリストのヘブライ発音)とローマ提督ポンティウス・ピラトゥスの物語を書いていたが、その作品は作家協会からは締め出され、密告により行き場がなくなり原稿を燃やして精神病院に収容されていた。
悪魔は語る。私はまさにキリストとピラトの語りのその場にいたんですよ。
悪魔一味は更にモスクワを弄び、我々読者は第二章に導かれ、やっとヒロインマルガリータとご対面。
マルガリータはあらゆる恩恵の元に生まれ育っていたが、ブルジョワの退屈さと消えた秘密の恋人の消息に心を悩ませていた。悪魔たちがマルガリータのもとに現れ取引が成立し、自由奔放かつ強靭で情に溢れた魅惑の魔女となったマルガリータを女主人とした悪魔の大宴会が行われる。
悪魔たちがマルガリータに真の望みを聞いたとき、その望みはかなえられ、灰の中から巨匠の原稿が復活する。
巨匠の作品が完成された時、悪魔たちは真の姿を取り戻し、待ち続けた男の元に安息が訪れる。
★★★
旧ソ連では評価されなかった作者が死後評価され刊行された作品。
あとがきの作者の再評価と、復活した巨匠の物語が重なり合って興味深いです。
中盤までは悪魔たちが目的も見せずただ気まぐれに人を弄び関わった人間たちは生活も精神も狂わされ人知を超えた悪魔の不気味さを味わっていたのが、中盤での悪魔パーティの荒唐無稽さは難しいこといいからとにかく楽しもうという奔放さに乗っかって読書の楽しみを味わい、終盤では悪魔たちにも目的があったのかと驚きつつ展開の巧みさがお見事です。
巨匠の小説でありどうやら真実であったイエスとピラトの物語も人も人の情が深い。展開がわからないうちは時代背景と合わせた風刺的で息苦しく説教臭い話なのかと思いきや、待ち続けた男のもとに許しが訪れるという解放のお話であったとさ。ラストの充足感とちょっとした物哀さが心地よい読後です。
<<以下ネタバレ>>
疑問が一つ。
巨匠とマルガリータが毒酒を飲まされた場面は、その後の失踪の辻褄合わせのために身代わり死体が用意されたということかと思ったんですがどうなんでしょう?精神病院の隣の患者は原因不明の死を遂げたとされ、マルガリータはメイドの名を呼びながら息絶えた描写がある。これで「二人は現実の世界としては死んだことになったのか」と思った。
しかし終盤で二人はそれぞれ謎の失踪となっている。
あれ?毒酒で死んだのを目撃されたのでは?
もし「失踪」なら、あの毒酒で死んだことを確認された云々はなんだったんでしょう。
- 感想投稿日 : 2013年1月3日
- 読了日 : 2013年1月3日
- 本棚登録日 : 2013年1月3日
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