天来の美酒,消えちゃった (光文社古典新訳文庫 Aコ 4-1)

  • 光文社 (2009年12月8日発売)
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イギリスの作家。
デビュー後に「作家講座」から「見どころはあるけれどまだ小説のレベルに達してないので、うちの講座で技術を磨きませんか」という手紙を受け取ったんだそうだ。プロの作家なのに”へたうま”というか、”自己流で味がある”という扱いなのか(笑)、まあたしかにそんな感じの、深刻なはずなのにすっとぼけたような印象の短編集。


夫婦とその友達男性が車で旅行中。
途中で奇妙な蜃気楼を見たし、車の計器は故障したし、里程標に出てるのははなんか変な案内。
大きな街に辿り着いたんだけど、男が消えて、次には妻が消えちゃった。
残った夫は警察署に駆け込んだんだけど今度は車が消えちゃった。
警察では夫を酔っぱらいかって思って留置所にいれたんだけど。
==怖い…はずなんだけどどこかとぼけた感じもあって。
 /「消えちゃった」


ラッチワースはお屋敷と財産を相続したんだけど、やっかいなおばさんまで相続してしまった。
おばさんが賭博で擦ってしまうために大金を渡さなければいけないなんて!
相続した中で一番満足したのは酒蔵にあった9本の麦酒(エール)だった。美味いなんてもんじゃない。これこ極上の美酒!
ラッチワースは、最後の1本はいつかおばさんが死んだ時まで飲まないぞ、って決めた。
でもある時うっかり開けてしまって…。
==これまた深刻なはずなのになんかすっとぼけたような。
 /「天来の美酒」


最近牛たちが流行り病に罹るようになった。
そこへ少し頭のイカれたロッキーが笛を吹き吹きやってきた。
ロッキーはなんかおまじないでその病気を治せるっていうから、差配人はまあやらせてみるかって思った。
すると本当に牛の病気が治ったんだ。
ロッキーは月に照らされて素敵な曲を吹きながら帰っていった。
差配人はロッキーのやり方で国中の牛を治してやって大金持ちに!
ロッキーは?いや、あいつは何ももらねなかったよ。でもこの世には笛を吹くだけの風はたくさん吹いているからね。
 /「ロッキーと差配人」


最後にお墓に埋められた死人は、次の死人がくるまで前の死人たちにこき使われるっていう。
バーノヴァーに住むマーティンじいさんの大切な姪が死んだ。
大変だ、その前に死んだのはろくでなしのワルだ。しかももうお墓は一杯でこのあと誰も埋められない。かわいい姪っ子がずっとあいつらにこき使われるなんて!
==うん、まあ、良いのかな。ちょっと気の毒だけど。
 /「マーティンじいさん」


ダンキー・フィットロウっていう醜男で怠け者がいたんだ。そろそろ結婚したかったんだけど、ダンキーが望むようなきれいな女、立派な女はだれも彼を相手になんかしないよ。
ところがダンキーからはお断りの駱駝顔の女が「私が彼と結婚してみせるわ!」と息巻いた。
==なんかこれも愛?
 /「ダンキー・フィットロウ」


世界が終わりになると聞いて、暦博士はとっても困った。
そこで予言をした鬼のところに行ったら「例のクリスマス老人以外にわしを止められない」というから、暦博士はサンタクロースを探しに行ったんだ。
==クリスマス前の小噺みたいな感じ??(あとがきの解説によると、クリスマスイブの朗読として発表されたようです)
 /「暦博士」


小さな王国の姫君は、ナーシッサスという美しい若者に恋をした。
でも詩人のナーシッサスは自己表現にしか興味がなくて。
ナーシッサスが病気で死んでしまうと、姫君は美しい廟を作って自分の魂を側で眠らせると誓った。
==美しい描写もあるんだが、すれ違いのような気も。
 /「去りし王国の姫君」



幻覚とおしゃべりしながら歩き回ってる変わり者のソロモンは、友人のハーバーマスター夫妻に夕食に呼ばれた。
その時にソロモンは「精神と意思で何かを壊すことができる」って言っていた。
その晩ハーバーマスター夫妻の家をなにか恐ろしい”もの”が圧迫してきて…。
 /「ソロモンの受難」

お人好しのレイヴン牧師が最後の審判の日にどうなったか、聞いてるかい?
教区のみんなとハイキングに行ってた時に、突然最後の呼び出しがかかって気がついたらみんなで楽園への道を歩いていたんだ。
教区の連中は、ろくでなしもいるし身持ちの悪い者もいる。だけど天使に「君の魂を担保に入れて、彼らが全く罪がなく善良であることを保証するか」と問われたレイヴン牧師は「保証します」って答えた。
するとレイヴン牧師が連れた連中は天国への橋を渡ったのだが…
==ラストは「ええーー」と言う感じ。キリスト教徒でないのでよくわからんのだが、これはちょっとお気の毒な気がする。これはどうすればよかったんだ。
 /「レイヴン牧師」

あるお屋敷の奥方と、料理番の女性との仲はとても悪くなった。旦那様は料理人にクビを言い渡した。しかしこの料理人、クビを承服せずに台所に立て籠もっちゃって?!
==冒頭でこの旦那さんの人柄の良さと奥方の立派さと夫婦の幸福さを書いていたのにいきなり「ある朝目が覚めると、妻を嫌いなことに気がついたーしかも、ものすごく嫌いだし、おまえけに、二度と好きにはならなかった」などとさらっと書かれて、でも奥方の言う通り料理人にはクビを言い渡すし、この料理人も面倒くさいし(別におそろしくはなかったけど)。なんとも人間ってそんなもんなのか。
 /「おそろしい料理人」


フェントン・フェバリーという男の生涯。農家に生まれたが興行芝居を見て家を出た。その後は人気俳優になったり、教会の広告塔になったり、でも主を信じる必要はないって約束したその言葉をそのまま持って生涯を終えた。
 /「天国の鐘を鳴らせ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●英国文学
感想投稿日 : 2021年7月28日
読了日 : 2021年7月28日
本棚登録日 : 2021年7月28日

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