部屋をめぐる旅 他二篇 (ルリユール叢書)

  • 幻戯書房 (2021年9月30日発売)
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感想 : 2
3

『部屋をめぐる旅』
決闘騒動で蟄居を命じられた著者が、それならばと「私は、部屋を巡る四十二日間の旅を企画し、実行した」として書いた、筆すさびというか、エッセイというか、思考の流れを書き留めたというかそんな感じ。蟄居文学というらしい。他にもあるのか?このジャンル。

えーっとですね。著者はサヴォワの貴族軍人でフランス革命の頃。発行するつもりもなく書かれたので、訳注がないと本当にわからない_| ̄|○
発行は兄のジョゼフ・ド・メーストルによるもので、この兄弟は政治思想を共感していたようだ。
グザヴィエ・ド・メーストルはフランス作家となってるけど、フランス軍がサヴォアを併合したため、ロシアに亡命して、ロシア軍に所属したようだ。

本の内容は、部屋の中にいながらも、貴族教育と教養のために諸外国や時節に思いを馳せるたというものだが、読者としてはすみませんがよく理解できず_| ̄|○
部屋の形は「長方形で36歩で一周する」らしい。そこで調度品とかを旅の光景に見立てて、「意思を持って旅経ったはずなのに椅子に辿り着いたので座ったけどそれでいいや」みたいな。
ところどころ、現実的な人間のことや、慰めとなる犬のこと、舞踏会のこと、お付き合いのあった女性たちのこと、降霊回のことなど書かれているので、現実的な部分だけはまあなんとか分かった。

『部屋をめぐる夜の遠征』
「部屋をめぐる旅」が発行され、読者に答える感じで書かれたらしい。「部屋をめぐる旅」から数十年経っているので、人との別れがあったり、著者兄弟もロシアに亡命している。
部屋という狭い場所で、世界を思って書き連ねたエッセイのようなもの。…すみません、理解できず_| ̄|○

『アオスタ市の癩病者』
著者が聞いた話を小説化したお話。
いわくつきの廃城に立ち寄った軍人は、そこに隔離されている癩病患者の姿を見る。
近寄ってはいけないという癩病者と、庭を見ただけです、良ければ話をしましょうという軍人。
癩病患者は、かつて同じ病で亡くなった妹のこと、今の隠遁生活のことを語る。
再会と文通を願う軍人に、患者は「再会は神のもとで」と、城の中に戻るのだった。

冒頭の寂れた町の廃城でありながらどこか人の気配を感じる庭の描写、患者と軍人の静かな語り、いかにもキリスト教国家らしい静かなお話でした。


そのほか、『サント=ブーヴ「グザヴィエ・ド・メーストル伯爵伝」と、訳者解題』が収録され、著者についての解説と年表、詩が掲載されている。
この解説で「サマセット・モームの短編集『木の葉のそよぎ』はメーストルの著書から取った題名」ということと「『ホノルル』という短編に『部屋をめぐる旅』の事が出ている」と出ていたので、短編集で読んでみた。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/410213008X
<かしこい旅行者は、空想だけで旅をする。むかしあるフランス人(ほんとうはサヴォア人なのだが)は、「わが部屋をめぐる旅」という本を書いた。実はまだ読んでもいないし、どんなことを書いたものかそれさえ知らないのだが、少なくともこの題名は、私の空想をそそる。こうしたやり方でなら、世界周航だってすぐできるからだ。P155>
モーム、読んでないのかーーーヽ(・ω・)/


読書会メモ
・本職作家でない。思ったことつらつら。
・「獣性」という概念について…(?。?)
・ユイスマンス「さかしま」の引きこもりに比べれば、メーストルは信仰も失わずまともだなー。
・部屋の中で都市のことを考えるのは「失われた時を求めて」でもありました。
・ボルヘスがこの本を褒めている。「アレフ」で登場人物の詩に取り上げられていました。<されどわが物語るは…わが部屋をめぐる旅>
・この本、当時はそれなりに売れたんですよね。「旅」が身近でなかった時代の、「旅」への良いイメージ。
・「あの印象を受けたのは、こういう経験があったから」という書き方はフランス文学の中でも心理主義心理主義。ゴシップ好きなので他者の心理やフェチズムに興味がある。
・フランス革命で理性が重視されている時代、理性だけでなくて獣性も人間の中にはたくさんあるという目線。降霊術とか付き合った女性とか。
・部屋の創りも描かれているがよくわからない、はしごを登って窓に辿り着く?
・「部屋をめぐる旅」はまだ若い軽さがある。「夜の遠征」のほうは、「部屋をめぐる旅」よりは憂鬱な感じがする著者の後半生の流浪の日々、故郷を亡くした哀愁、人間と関わりたいくないなーーという気持ちが出ているのかな。
・そもそも著者の「決闘騒ぎで蟄居」って何をしたんだろう。当時は決闘は禁止されていたのに、決闘しちゃったのかな。
・この作者は亡命やら戦争やら波乱万丈。でも亡命先のロシアでも出世したりなんとかなっている。
・そういえば「アオスタ市の癩病者」も、世間から隔絶されている人物。著者は、世間から隔絶された状態で内面を見る文学が好きなのか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●その他欧州文学
感想投稿日 : 2022年2月24日
読了日 : 2022年2月24日
本棚登録日 : 2022年2月24日

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