雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1959年9月29日発売)
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感想 : 87
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先日読んだサヴォアの作家グザヴィエ・ド・メースト「部屋をめぐる旅」
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4864882312#comment
の巻末に、モームの『ホノルル』の冒頭で『部屋をめぐる旅』のことが触れられていると言うので読んでみた。
<かしこい旅行者は、空想だけで旅をする。むかしあるフランス人(ほんとうはサヴォア人なのだが)は、「わが部屋をめぐる旅」という本を書いた。実はまだ読んでもいないし、どんなことを書いたものかそれさえ知らないのだが、少なくともこの題名は、私の空想をそそる。こうしたやり方でなら、世界周航だってすぐできるからだ。P155>
モーム、読んでないのかーーーヽ(・ω・)/

そしてこの短編集の3作は、3つとも「人間てさーー」となる、皮肉なラストでございました。

『雨』
南洋の任地に向かう宣教師のデヴィドソン夫婦。デヴィドソン氏は非常に厳格で、今までも道徳や信仰に対するどんな緩みも許さず、教区の人々には罰則を下していた。
雨により船が停まり、乗客は小島に留まる。そんなデヴィドソン氏の前に現れたのは、いかにも身持ちの悪い夜の女。デヴィドソン氏は眉をひそめて女への説教を繰り返す。執拗に、高圧的に。その絶対的な態度こそが彼女を救うと思っている。やがて女も少しずつ神意に傾きかける。だが雨が、降り続くその雨がデヴィドソン氏の理性をかき乱し…。
==厳格。雨。息苦しい。しかし最後は「人間って ずこーー」っとなるような、まああるような、うんうん、男の(人間の)サガってやつだね。
このお話映画化されていますよね。すごく昔にテレビで見たことがある。これはラストの神父と夜の女の場面がもうちょっとわかりやすく表現されてました。でも小説の、それをはっきり書かずに女のセリフ一行で「…あ…(お察し)」となるのがこの短編の面白さでもあるのですが。


『赤毛』
南洋の小さな島ののどかな光景。最初は病気療養だったがそのままこの地にいついた男の家に、太った船長が訪れる。男は船長に、昔終わった美し恋愛の話をする。島の美しい娘と、赤毛でレッドと呼ばれる西洋人の美しい青年が出会い、恋をして、結婚して、だが男は船で連れ去られた。
いなくなった昔の愛しい男をいつまでも待ち続ける女。彼女に恋した自分はこの島に留まった。だが彼女はいつまでも男の影を思っている。
この島が美しくみえるのも、そんな愛があったからだ。
ふと、男は船長の眼差しに気がつく。なぜ彼は初対面の自分を嫌っているのだろう?彼の白髪は、赤毛の名残ではないか。
そこの男の妻が現れる。すっかり太ってありふれた現地の中年女になった、かつての美しい娘。30年ぶりの対面、いよいよその瞬間が訪れ…
==まあモームですからね。人間ってまあこんなもんよね。

『ホノルル』
サヴォアの作家グザヴィエ・ド・メースト「部屋をめぐる旅」のことが書かれているというので読んでみた。
<かしこい旅行者は、空想だけで旅をする。むかしあるフランス人(ほんとうはサヴォア人なのだが)は、「わが部屋をめぐる旅」という本を書いた。実はまだ読んでもいないし、どんなことを書いたものかそれさえ知らないのだが、少なくともこの題名は、私の空想をそそる。こうしたやり方でなら、世界周航だってすぐできるからだ。P155>
モーム、読んでないのかーーーΣ(゚口゚;
私には「部屋をめぐる旅」が理解できなかった_| ̄|○ のですが、多くの作家たちの興味をひいているのは、家の中で世界を巡るということが作家活動そのものだからなのかな。

しかしこの短編の語り手は、空想ではなく実際にホノルルに行く。そして現地で知り合った元船長から呪いのような伝奇譚を聞く。魅力的な現地妻を巡っての三角関係、そして船長は相手の男から呪いを受けて弱っていく。女は相手の男に近寄り呪いを解消しようと…。
最後の最後で「人間ってーー」というオチ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●英国文学
感想投稿日 : 2022年2月25日
読了日 : 2022年2月25日
本棚登録日 : 2022年2月25日

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