夢見る帝国図書館

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年5月15日発売)
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図書館が視点の小説という、不思議な小説と、それを書きつづる作家の体験。
それは‥
本と作家と図書館への愛、そして本を愛する人への愛に満ちた物語。

作家の〈わたし〉は、国際子ども図書館の前で、60ぐらいの女性に出会う。
不思議な雰囲気を持った喜和子さん。
「図書館が主役の小説を書いてみない?」と提案されて、帝国図書館の歴史を調べ始めます。
図書館が日本に生まれたいきさつ。
蔵書を集め、守ろうとする司書たち。
まだ若く作家の卵だった頃に通ってきた作家たち。
戦争や、震災の影響‥
書き継がれる小説の内容が所々に挟まれ、古い本と家具の匂い、その時代その場の空気感が漂うよう。

喜和子さんは裕福とは言えず、ごく狭い家に住みながら、素敵に整えているおしゃれな女性。
かって上野で子供時代を過ごし、図書館に住んでいたようなものと言う喜和子さん。
それはどういう意味なのか。

喜和子さんの娘が行方知れずだった母親を探して現れ、胸の痛む再会。
喜和子さんが出ていくときに「もういいと思った」という発言が、たまたま他の小説でも似たようなことを読んだばかりで、個人的に気になりました。(宮木あや子の「手のひらの楽園」)
家を出る母親は、子が成長すると「もういいだろう」と思い、そう言うものなのか?
子どもとしては、納得できないのでは。
最近になって気づいたのは、それまでの生活がほぼ虐待されていたようなものだから、限界だったということ。
子どもの目から見れば苦労はしていてもしっかりした大人に見えた。でも、実際にはもう壊れていたんだ…

喜和子さんが語った思い出、図書館で起きたという不思議な出来事の謎が、最後に解ける。
じんわりと胸が暖かくなる読後感でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内小説
感想投稿日 : 2023年2月1日
読了日 : 2020年2月1日
本棚登録日 : 2023年2月1日

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