犯罪

  • 東京創元社 (2011年6月11日発売)
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感想 : 365
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面白すぎる…!

高名な刑事弁護士が、自らの体験を元に描いた小説。
短編連作のような形です。
犯罪なのだから、明るい話ではありませんが。
犯罪をするに至った育ち方や運命の連鎖を、淡々と冷静に。
適確な話の運びで、すいすい読めてしまいます。

「フェーナー氏」は開業医。
美人のイングリットと結婚し、新婚旅行先で、決して棄てないと誓う。
だが、この妻はきつい性格だった…

「ハリネズミ」はレバノンから移住した一家の話。
カリムには8人の兄がいたが、皆犯罪者だった。
学校は多民族モデル学校で、80%が外国人だったので、いじめられることはなかった。
だが一人だけ頭の良いカリムはそのことを隠さなければならず、二重生活を送るようになる。
そして、兄の一人が犯罪を犯したとき、カリムは一計を案じ…?

「幸運」は戦争ですべてを失い、祖国を逃れてベルリンへやって来た若い娘イリーナ。
身体を売るしかなく、次第に生きている実感もなくなっていった。
だが通りで暮らしていた若者カレと出会い、心を通わせる。
ある日、イリーナの客が急死し、大変なことになるのだったが。

「棘」は博物館の警備員の話。
本来は6週間ごとに配置転換になるのだが、書類のファイルミスで、23年間も同じ展示室に居続けだった。
一番奥にあって訪問者も少ない、だだっ広い部屋に一人で。
そのために、だんだんおかしくなってしまい、ある時…

人への暖かい思いが、真実を追究し、犯罪の性質を見極めようとするまなざしの奥底にこめられています。
さりげなく書かれていますが、名弁護により無罪を勝ち取ってあげたケースに、しみじみと満足感がわき起こります。

ドイツの法律は日本とはやや違っていて、検察官は弁護士と正反対の立場ではなく、中立の立場なんだそうです。
参審制という裁判員制度のような物もあり、事件ごとに選出されるのではなく任期制。
これらは読む上ではそんなに問題にはなりませんが、知らなかったことなので興味を惹かれました。

悲惨というよりも数奇な運命に驚嘆。
あっという間に虐げられてしまう人の心の弱さと、時には回復も出来うる弾力の強さ。
短編小説の名手を何人も思い浮かべました。
モームやチェホフまで。

著者は1964年、ドイツのミュンヘン生まれ。
1994年からベルリンで刑事事件弁護士に。
2009年の本作でデビュー、ベストセラーに。多数の文学賞を受賞した。
日本でも「ミステリが読みたい!2012年」海外部門第2位。
週刊文春の「2011ミステリーベスト10」海外部門で第2位。
「このミステリーがすごい!2012年版」海外編2位。
2位が多いのはある意味、実録物と思われたからでは。
2012年4月、本屋大賞の翻訳小説部門、第1位。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ(ヒーロー)
感想投稿日 : 2012年6月8日
本棚登録日 : 2012年6月7日

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