山程ある東野作品の中でも、必ず上位に食い込む名品!
トリックの意外さや天才同士の駆け引きも十分面白いのだけど、あの結末をどう捉えたら良いのか…
なかなか読み手に考える余地を残した素晴らしいラストシーン。
ああ切ない。
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もうここでストーリーやトリックのことは言うまい(他の方がすでに十分レビューされているので)
果たして、石神がしたことは花岡親子を本当に助けたことになったのだろうか?
【心に曇りを持たぬまま工藤のもとへ飛び込んで行けたらどんなに幸せだろうと思った。だがそれは叶わぬ夢だ。
自分の心が晴れることはない。
むしろ、心に一点の曇りも持っていないのは石神だった。】
花岡親子が犯した罪。
その罪を隠すために石神が犯した罪。
全てを自分に取り込み、退路を断ち、逮捕された石神。
残ったのは彼に対しての重すぎる罪悪感だ。
それらを全て背負い、死ぬまで秘密を抱えて別のスタートを切って幸せになる
自分が心から愛した靖子は、そういう風に生きていける女だと石神は思っただろうか?
そもそもそういう風に生きていける人間など、果たしているのだろうか?
小説では石神の見た目のコンプレックスにもかなり重きを置いていたように思う。
ずんぐりした体型。大きく丸い顔、
細い目、薄くなった毛髪。
いつも同じような服ばかり着ている。
そして、自分のような男が靖子に気があることすらひた隠しにする。
今まで数学のことしか関心がなかった彼は、恋をして笑われるのが怖くなった。
石神は事件に関わった事で思わぬ機会を得た。
これで心置きなく靖子に犠牲を捧げることができる。
しかもこれは絶対の秘密だ。
誰にも知られない形で、花岡親子のみが自分の愛を知る事になる。
(マジのトリックは彼女らにも極秘だけど)
これは石神にとって願ってもない機会だったのではないか、と思ってしまう。
自分を貶めることすら構わない。
彼の愛の深さに、心を揺さぶられる。
それは愛に見える。
けれど、その愛は彼女らが罪を償って身軽になるという権限を永遠に奪ってしまう事になる。
果たしてラストは良かったのか悪かったのか…
石神・湯川のキャラクターの素晴らしさ、ミステリーとしても超弩級の魅力を持ちながら、哲学的な余韻も残す、まさに素晴らしい作品。
- 感想投稿日 : 2021年11月6日
- 読了日 : 2021年10月31日
- 本棚登録日 : 2020年11月13日
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