生まれてから一度も、欲したことなどなかった母。母への怨恨。最後、生家へ行き自分のアルバムを探す節子。その心理の中には、この母娘にしかわかりえない親子の情が見えた気がした。
お金目的、母への復讐か親子ほど年の離れた母の元愛人との結婚。幸田をお父さんと呼ぶ節子の姿に、徐々に愛情が見え、よけいにやるせなかった。節子が求めていたのは父親の愛でもあったのか。
どうして澤木ではいけなかったのか。全力で節子をサポートしているのに繋がらない澤木の祈り。身体は繋がっても、なにひとつ繋がり合えないことを確信する行為、という表現が悲しい。
幸田が瀕死状態になった所から引き込まれ、読まさせられる勢いを感じた。クールで行動的、人の洞察力に優れ、文才に長ける節子。節子が最大限に魅力的に描かれていた。ラスト、未来が見えない終わり方がよけい余韻が残り良かった。
心情描写によく砂が表されていた。
窓の外で湿原の風にそよぐ葦の穂。
「洞ろさらさら砂流れたり」体を流れる砂の音は、その本人にしか聴くことができない。
非道な暗いストーリーなのに、美しいと感じさせる桜木紫乃さんの筆力を感じた作品だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年9月12日
- 読了日 : 2021年9月12日
- 本棚登録日 : 2021年9月12日
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