無意識の構造 (中公新書 481)

著者 :
  • 中央公論新社 (1977年9月22日発売)
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感想 : 88

臨床心理学やあるいは哲学などの思想関係の書を読めば、たいてい、「自我」「自己」「意識」「無意識」などといった言葉が用いられる。このあたりを意識している人もいれば、意識せずに散漫として使ってしまっている人もいる。また、これらの言葉に対する定義がその人その人で異なっていたりもするので、やはりその言葉を単純な字面だけで捉えるのではなくてコンテクストも意識しなければならない。同一人物によって用いられた言葉でも、場合場合で意味が異なって用いられることは自分を顧みればすぐにわかることだろうとは思う。しかし、やはり、自分の中でこれら四つの概念の関係がごちゃごちゃになってきて、ややこしいかったのでこの一冊はかなりその分類に役立ってくれたように思う。無論、これはフロイト―ユングを源流とした河合隼雄版分類ではある。

著者としては、まず西洋系と東洋系とでこの仕組み自体をわけてしまっている。このあたりは大胆であるが、現在の日本人はどちらに含まれるかと言うと、人によるばらつきがあるとは言わざるを得ない。一般的には西洋的になりつつあるが、ある意味、東洋系の昔ながらの日本人観にしがみついて離れられない人もいるのだから。西洋的な人からすると、東洋的な人は時代遅れであったり偏執的であったりし、西洋的になれという押し付けに反発を覚える人は、西洋的な人は合理的過ぎるとして批判する。とはいえ、合理的という単語も、この頃その意味するところに違和を抱きつつもある。つまり、ユングが言うところの外向と内向で考えてみればいいのだろうが、内向的合理的と外向的合理的があるので、世間一般で言う際の合理的は外向的な気がして、内向的合理的は世間一般では直観として言い表わされているように思われる。話自体はずれたこれで自分なりの曖昧さがいくらか解消されたのでよしとする。さて、著者は西洋系と東洋系とでわけた際に、西洋系は自我を基軸としていると考えている。確固たる自我があり、自我によって意識されている意識がある。実はその向こうに無意識がありそこに無意識を包含した自己があるのだけれど、自我うまく捉えられないので意識的な自我と無意識的な自己とを結ぶために西洋人は苦労すると言うのである。それに対して東洋系は自我がうすくその概念すらややもすればないのかもしれない。彼らにあるのは自己であり、自己は意識も無意識をも包みこむ大らかななものとして捉えられる、といった区分である。しかしこれはだいぶ甘いとは思う。東洋が例えば、イスラームであるならばこの区分けは当てはまるかもしれないが、中国は歴史的に見ればあてはめられるかもしれないが生きた中国人を見ればやっぱり難しいといわざるを得ないだろう。偏見も含まれるかもしれないが、偏見だと言い切ることもできまいし、これが現代的中国人だけが持ちうる特性だとも言い切れまい。とはいえ、著者の場合これら四つの概念が非情に明瞭に整理されており参考になる。加えて自己を閉じられた自己と開かれた自己とで著者は二分しており、閉じられた自己の際は個人としての自己であり、開かれた自己の場合は集合的無意識を共有しているのでこの場合の自己とは普遍的な同一点に定められると著者は言うのである。個人的に違和を感じるのは、著者が言うとおりなら全ての可能性を人は包含しうると言えてしまうあたりだろうか?そのあたりがしっくりこない。また、他者との関係においてあれこれ物差しをつくろうとしている人は現象学なんかでもいるけれど、基本的にそういうことを述べている人はいつだって大衆ではなくて大衆を見下している側の人間だというところが一つの問題な気がする。そのあたり著者はすごく潔いのかもしれない。「一般的な人は無意識的な世界にすら気付かないで終わるだろう」みたいなことを述べておられるので。著者はある意味で大衆を見下している感が否めないのである。見下しているというとも違うのだけれど、ある種の差別みたいなのを肯定しているのだろうな。そのあたりはいけないというひともいるようだけれど、差別や見下すまでいくとあれだけれど、境界や差を設けなければむしろ大衆を保護するための学問や大衆に気を遣って為される学問となりえてしまうのではないかなとも思われる。ちなみに個人的な大衆にならないための方法は大衆になりたくないと思うことや自分は大衆ではないと思うことではなくて、「自分は大衆かもしれない」という危機感を抱き続けることだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 臨床心理、精神分析、精神病理
感想投稿日 : 2011年6月30日
読了日 : 2011年6月30日
本棚登録日 : 2011年6月30日

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