白痴(下) (新潮文庫)

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感想 : 103
5

まさに『ブ、ブラヴォー・・・・・・』の一言に尽きます。
ドストエフスキーの『白痴』といえば5大長編の一つということしかあまり語られることがなく、僕も「恋愛小説」という前知識くらいしかなかったのですが、これほどの美しくも凄まじい悲恋物語であったとは知りませんでした。
本書は『文学史に輝く究極の恋愛小説』の一つと言っても過言ではないでしょう。

ドストエフスキーと同じロシアの偉大な文豪で『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』で有名なレフ・トルストイも本書について
  「これはダイヤモンドだ。その値打ちを知っているものにとっては何千というダイヤモンドに匹敵する」
と評したと言われています。

どうしてもドストエフスキーというと『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』の2大傑作ばかりがクローズアップされてしまいますが、いやいやこの『白痴』、素晴らしいですよ。ちょっと世間の評価は低すぎるのではないでしょか?

まさに本書はドストエフスキーの描いた究極の『愛』の形。
ラストで描かれるこの静謐な情景。
愛する者の遺体を目の前にして横たわる2人の恋敵。
あまりにも感動的です・・・。

この場面は、星の数ほどある世界中の恋愛文学のなかでも1、2位を争う美しいシーンなのではないでしょうか。
もう僕の脳内ではその情景がありありと浮かび上がり、もし僕に絵心があったならばライフワークとしてその情景を描き続けたいくらいです(笑)。

そしてなにより本書に描かれるキャラクターがみな素晴らしい。
主人公レフ・ニコラエヴィチ・ムイシュキン公爵が中心となり、薄幸でありながらその手腕と美貌で全てを手に入れた究極の美女・ナスターシャ・フィリポヴィナ、ムイシュキン公爵の無垢な人柄に惹かれるエパンチン将軍家の美しき3姉妹の末娘、美少女アグラーヤ・イワーノヴナ・エパンチナ、ナスターシャをひたすら愛するやくざな大金持ち・パルフョーン・セミョーノヴィチ・ロゴージンの4名による究極の四角関係が形作られます。

ムイシュキン公爵とロゴージンとの間で揺れ動く究極の美女・ナスターシャ。
ムイシュキン公爵を健気に愛するツンデレ美少女・アグラーヤ。
ナスターシャをどんな方法でも手に入れようとするやくざなロゴージン。
そして、ナスターシャもアグラーヤも純粋に愛してしまうムイシュキン公爵(←っていうか、あんたの優柔不断が一番悪い)。

もう、ここまでドロドロだと、笑いを通り越して感動すら覚えてしまいます。
ラスト前で繰り広げられるムイシュキン公爵を目の前にしてのナスターシャとアグラーヤの文字通り『女同士の一騎討ち』は、もう世界文学史上、最もひどい、それこそ最悪の『修羅場』として記憶されるべきでしょう。
1868年に上梓された本書、つまり今から150年前以上も前に描かれた『女同士の修羅場』は必見です。
この修羅場のシーンから怒濤のラストまでの約100ページを読む為だけに、このドストエフスキーの『白痴』(総ページ数、約1400ページ)を読破すべきと僕は言いたいですね。
はっきりいって度肝を抜かれます。


ふう。
素晴らしい物語でした。
もし僕がムイシュキン公爵だったら、ナスターシャとアグラーヤのどちらを選ぶかなあ。
ナスターシャもアグラーヤもどちらも超絶美女。
ナスターシャの若き日のどん底生活から這い上がってきた苦労、そしてナスターシャが「自分のような穢れた女と一緒になったらあなたは不幸になってしまいますわ」という自虐的でありながらも、その尊い気持ちも痛いほど分かる。
「今度うちに遊びに来ても、口きいてあげないんだからねっ!(※僕の脳内で再生されたアグラーヤのムイシュキン公爵に対するセリフなので若干原書とは異なります)」などとのたまう、箱入り娘アグラーヤの純粋無垢で思いっきりツンデレな可愛らしさも捨てがたい。(そう、150年以上も前からこの『ツンデレ』という萌(もえ)要素は確立されているのですw)
ムイシュキン公爵が悩むのもよく分かります(笑)。

しかし、僕だったらここは、究極の美の権化・ナスターシャでもなく、超ツンデレ美少女・アグラーヤでもなく、あえて『ヴェーラ・ルキヤーノヴナ』を選びたいところです。
  は?お前、それ誰やねん!全く今まで出てきてないやん、ええ加減にしいや!
とここまで、この僕の上下巻に渡る冗長なレビューを読んでくれた人全員がこう思うと思います。

そう、ヴェーラは準ヒロインでもなく、脇役キャラにちょっと毛が生えたような女性です。
彼女は、ムイシュキン公爵が世話になっている小役人レーベジェフの娘で、ムイシュキン公爵の身の回りの世話を時々してくれる美少女なんですね。
ムイシュキン公爵もヴェーラのことを『なんて可愛らしい娘さんなんだろう』と褒めており、ムイシュキン公爵の他にもいろいろな登場人物の口からその美しさが褒められているので、ヴェーラの美少女っぷりは間違いないところです。
一説によるとこの『ヴェーラ』はドストエフスキーの姪のソフィア・イワーノヴナがモデルとされています。

そしてこのヴェーラもムイシュキン公爵を陰ながら慕っており、ムイシュキン公爵がうちひしがれている時でも、そっとその心を慰めようといろいろと世話をしてくれるのです。
どうです?素晴らしい女の子ではないでしょうか。
もし、これからこの『白痴』を読んでみようかなって思う人がいたら、ちょっとこの『ヴェーラ』に気を止めていただけたら幸いです。

本書は、150年以上も前に男女四角関係をその深層心理まで描きあげた傑作です。
この小説のモチーフは現代の恋愛小説や映画にも多大な影響を与えたのではないでしょうか。例えばダスティン・ホフマン主演の名画『卒業』での名シーン、結婚式場から花嫁を奪っていくところなど、この『白痴』にでてくるあるシーンそのままです。

という訳で、最後は訳の分からないレビューになりましたが、本書はドストエフスキーの描く恋愛小説の傑作あることは間違いありません。ドストエフスキーと言えばやはり『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』(実は『カラ兄』、僕は未読です・・・)ですが、読むべきドストエフスキーの傑作の一つにこの『白痴』も加えていただきたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(純文学)
感想投稿日 : 2019年12月6日
読了日 : 2019年12月6日
本棚登録日 : 2019年12月6日

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コメント 5件

ハイジさんのコメント
2019/12/06

完読おめでとうございます♪
kazzu008さんの興奮が伝わってきて、まだ読んでいない「白痴」に私からもブラヴォー!です(笑)
いつか絶対読みます。
楽しみです♪
お疲れ様でした!

kazzu008さんのコメント
2019/12/07

ハイジさん、コメントありがとうございます!
この『白痴』最高でした。こういう物語がこの時代にすでに出版されていたということが驚きです。下手すれば昼メロ以上のドロドロ感ですもの(笑)。
ぜひ、おすすめの本ですので、機会があったら読んでみてくださいね!

やまさんのコメント
2019/12/07

kazzu008さん
おはようございます。
いいね!有難う御座います。
吉原裏同心シリーズは、今回で32作目になります。
佐伯泰英さんの本は、最初に「居眠り磐音江戸双紙」を読んでから「鎌倉河岸捕物控」を除いて全ての作品を読んでいます。
佐伯さんには、感謝をしています。
居眠り磐音が出てからは、他の時代小説も字が大きくなってきましたし、多くの作家が書くようになりました。
一時は、時代小説ブームが到来したと言われ、書店に行くと一番いい所に時代小説が並んでいました。
わたしも、大活字本だけでなく文庫本も読めるようになりました。
本当に感謝しています。

やま

きのPさんのコメント
2020/07/09

このレビュー、いや、「ブ、ブラヴォー・・・」が本当に好きすぎて、つい何度もこのレビューを見にきてしまいます。笑

kazzuさんのおかげで、「白痴」がとても気になっています!!
正直なところ、Amazonのカートにここ数ヶ月、ずーっと入ってます!!
ですが、ドストエフスキーの「罪と罰」や「カラマーゾフ」ですら読むのにかなり難儀しましたので、果たして自分にこの作品を完読できるのかと不安になってしまい、注文確定ボタンを押せません。。。

kazzuさん、こんな僕に、「白痴」を読む勇気を与えてくれないでしょうか?
情けないお願いですが、宜しくお願い致します。。

kazzu008さんのコメント
2020/07/11

きのPさん。
こんにちは。コメントありがとうございます。
コメントのお返事遅くなってすいません。

確かにドストエフスキーを読み始めるのは勇気がいりますよね。でも、この『白痴』はおすすめです。
ドストエフスキー5大長編の唯一の恋愛ものですし、話も分かりやすいです。特に『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』を読破されたのなら問題なく楽しめると思います。

特に本書に登場する女の子たちがみんな非常に魅力的なので、自分の好みの女性を思い浮かべて、脳内再生しながら読むのがおすすめの読み方ですねw。
ぜひ、本書を読破して感想を語り合いましょう!!

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