まさに『ブ、ブラヴォー・・・・・・』の一言に尽きます。
ドストエフスキーの『白痴』といえば5大長編の一つということしかあまり語られることがなく、僕も「恋愛小説」という前知識くらいしかなかったのですが、これほどの美しくも凄まじい悲恋物語であったとは知りませんでした。
本書は『文学史に輝く究極の恋愛小説』の一つと言っても過言ではないでしょう。
ドストエフスキーと同じロシアの偉大な文豪で『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』で有名なレフ・トルストイも本書について
「これはダイヤモンドだ。その値打ちを知っているものにとっては何千というダイヤモンドに匹敵する」
と評したと言われています。
どうしてもドストエフスキーというと『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』の2大傑作ばかりがクローズアップされてしまいますが、いやいやこの『白痴』、素晴らしいですよ。ちょっと世間の評価は低すぎるのではないでしょか?
まさに本書はドストエフスキーの描いた究極の『愛』の形。
ラストで描かれるこの静謐な情景。
愛する者の遺体を目の前にして横たわる2人の恋敵。
あまりにも感動的です・・・。
この場面は、星の数ほどある世界中の恋愛文学のなかでも1、2位を争う美しいシーンなのではないでしょうか。
もう僕の脳内ではその情景がありありと浮かび上がり、もし僕に絵心があったならばライフワークとしてその情景を描き続けたいくらいです(笑)。
そしてなにより本書に描かれるキャラクターがみな素晴らしい。
主人公レフ・ニコラエヴィチ・ムイシュキン公爵が中心となり、薄幸でありながらその手腕と美貌で全てを手に入れた究極の美女・ナスターシャ・フィリポヴィナ、ムイシュキン公爵の無垢な人柄に惹かれるエパンチン将軍家の美しき3姉妹の末娘、美少女アグラーヤ・イワーノヴナ・エパンチナ、ナスターシャをひたすら愛するやくざな大金持ち・パルフョーン・セミョーノヴィチ・ロゴージンの4名による究極の四角関係が形作られます。
ムイシュキン公爵とロゴージンとの間で揺れ動く究極の美女・ナスターシャ。
ムイシュキン公爵を健気に愛するツンデレ美少女・アグラーヤ。
ナスターシャをどんな方法でも手に入れようとするやくざなロゴージン。
そして、ナスターシャもアグラーヤも純粋に愛してしまうムイシュキン公爵(←っていうか、あんたの優柔不断が一番悪い)。
もう、ここまでドロドロだと、笑いを通り越して感動すら覚えてしまいます。
ラスト前で繰り広げられるムイシュキン公爵を目の前にしてのナスターシャとアグラーヤの文字通り『女同士の一騎討ち』は、もう世界文学史上、最もひどい、それこそ最悪の『修羅場』として記憶されるべきでしょう。
1868年に上梓された本書、つまり今から150年前以上も前に描かれた『女同士の修羅場』は必見です。
この修羅場のシーンから怒濤のラストまでの約100ページを読む為だけに、このドストエフスキーの『白痴』(総ページ数、約1400ページ)を読破すべきと僕は言いたいですね。
はっきりいって度肝を抜かれます。
ふう。
素晴らしい物語でした。
もし僕がムイシュキン公爵だったら、ナスターシャとアグラーヤのどちらを選ぶかなあ。
ナスターシャもアグラーヤもどちらも超絶美女。
ナスターシャの若き日のどん底生活から這い上がってきた苦労、そしてナスターシャが「自分のような穢れた女と一緒になったらあなたは不幸になってしまいますわ」という自虐的でありながらも、その尊い気持ちも痛いほど分かる。
「今度うちに遊びに来ても、口きいてあげないんだからねっ!(※僕の脳内で再生されたアグラーヤのムイシュキン公爵に対するセリフなので若干原書とは異なります)」などとのたまう、箱入り娘アグラーヤの純粋無垢で思いっきりツンデレな可愛らしさも捨てがたい。(そう、150年以上も前からこの『ツンデレ』という萌(もえ)要素は確立されているのですw)
ムイシュキン公爵が悩むのもよく分かります(笑)。
しかし、僕だったらここは、究極の美の権化・ナスターシャでもなく、超ツンデレ美少女・アグラーヤでもなく、あえて『ヴェーラ・ルキヤーノヴナ』を選びたいところです。
は?お前、それ誰やねん!全く今まで出てきてないやん、ええ加減にしいや!
とここまで、この僕の上下巻に渡る冗長なレビューを読んでくれた人全員がこう思うと思います。
そう、ヴェーラは準ヒロインでもなく、脇役キャラにちょっと毛が生えたような女性です。
彼女は、ムイシュキン公爵が世話になっている小役人レーベジェフの娘で、ムイシュキン公爵の身の回りの世話を時々してくれる美少女なんですね。
ムイシュキン公爵もヴェーラのことを『なんて可愛らしい娘さんなんだろう』と褒めており、ムイシュキン公爵の他にもいろいろな登場人物の口からその美しさが褒められているので、ヴェーラの美少女っぷりは間違いないところです。
一説によるとこの『ヴェーラ』はドストエフスキーの姪のソフィア・イワーノヴナがモデルとされています。
そしてこのヴェーラもムイシュキン公爵を陰ながら慕っており、ムイシュキン公爵がうちひしがれている時でも、そっとその心を慰めようといろいろと世話をしてくれるのです。
どうです?素晴らしい女の子ではないでしょうか。
もし、これからこの『白痴』を読んでみようかなって思う人がいたら、ちょっとこの『ヴェーラ』に気を止めていただけたら幸いです。
本書は、150年以上も前に男女四角関係をその深層心理まで描きあげた傑作です。
この小説のモチーフは現代の恋愛小説や映画にも多大な影響を与えたのではないでしょうか。例えばダスティン・ホフマン主演の名画『卒業』での名シーン、結婚式場から花嫁を奪っていくところなど、この『白痴』にでてくるあるシーンそのままです。
という訳で、最後は訳の分からないレビューになりましたが、本書はドストエフスキーの描く恋愛小説の傑作あることは間違いありません。ドストエフスキーと言えばやはり『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』(実は『カラ兄』、僕は未読です・・・)ですが、読むべきドストエフスキーの傑作の一つにこの『白痴』も加えていただきたいと思います。
- 感想投稿日 : 2019年12月6日
- 読了日 : 2019年12月6日
- 本棚登録日 : 2019年12月6日
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