これは完全犯罪と言えるのだろうか…
トムの衝動的で突飛な殺人と、臆病なまでに練るに練られた計画的な偽装工作の連続。
そして、あまりにも幸運すぎる逃亡劇とその最後。
この作品では、事件自体の完全さというよりも、トム自身の感情の浮き沈みと、はたまた何があってもうまく立ち回る身のこなし、そして綻びをうまく拾っていく彼のスキル等々、“トム”という人間にスポットライトを当てることでこそ、主人公の魅力が表に現れ、非常に興味深く感じられる作品になっている気がする。
誰かを演じることでしか(ここでは“ディッキーだが”)今の自分を保てない不安定とも言える精神状態、自分から墓穴を掘るような言動や行動に走りかねない様子、そして上機嫌で楽天的と思いきや、自己嫌悪により何も手につかない、何も食べられないという繊細さ…ここまで心情がアップダウンの激しさが、軽快に、巧妙に描かれているのがおもしろい。
トムは、どこか、何か、罪の意識とは別の事件にいるような気さえする。
彼が本当に恐れているものとはなんなのか…警官か?死刑か?それとも?
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2022年8月1日
- 読了日 : 2022年8月1日
- 本棚登録日 : 2022年7月18日
みんなの感想をみる