太陽がいっぱい (河出文庫 ハ 2-13)

  • 河出書房新社 (2016年5月7日発売)
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本棚登録 : 350
感想 : 32
4

これは完全犯罪と言えるのだろうか…
トムの衝動的で突飛な殺人と、臆病なまでに練るに練られた計画的な偽装工作の連続。
そして、あまりにも幸運すぎる逃亡劇とその最後。

この作品では、事件自体の完全さというよりも、トム自身の感情の浮き沈みと、はたまた何があってもうまく立ち回る身のこなし、そして綻びをうまく拾っていく彼のスキル等々、“トム”という人間にスポットライトを当てることでこそ、主人公の魅力が表に現れ、非常に興味深く感じられる作品になっている気がする。

誰かを演じることでしか(ここでは“ディッキーだが”)今の自分を保てない不安定とも言える精神状態、自分から墓穴を掘るような言動や行動に走りかねない様子、そして上機嫌で楽天的と思いきや、自己嫌悪により何も手につかない、何も食べられないという繊細さ…ここまで心情がアップダウンの激しさが、軽快に、巧妙に描かれているのがおもしろい。

トムは、どこか、何か、罪の意識とは別の事件にいるような気さえする。
彼が本当に恐れているものとはなんなのか…警官か?死刑か?それとも?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月1日
読了日 : 2022年8月1日
本棚登録日 : 2022年7月18日

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