難解だけれども、とても壮大で美しい小説。
この小説は、時間、あるいは記憶が主題となっている。
ロシア革命でドイツに亡命し、小説家、詩人として自らの作品を世に問いつつあるロシア人青年フョードルが主人公。
フョードルが詩人としてはじめて出版した詩集に描かれている幼年時代の記憶。
フョードルの知人である夫妻のひとり息子で、自らベルリンの公園の森で命を絶ったヤーシャの記憶。
探検家であり昆虫学者であるフョードルの父の記憶を題材にした未完の小説と、そのなかに描かれる異国の蝶の美しさ (ナボコフ自身、蝶類の学者だそうだ!)。
世界そのものの真の美しさに目を向けようとせず、抽象的な理論に終始する19世紀ロシアの唯物論者チェルヌィシェフスキー批判の小説。(こういう時代背景があってドストエフスキー「罪と罰」も生まれたんだなぁ。)
主人公は、時間にしばられた有限な存在としての人間の記憶に、あらたに言葉の音楽を吹き込んで作品とすることで、円環としての人間の営みを超越することを願望する。
「このすべてがそんな風に閉ざされ、魂の物置の片隅で失われてしまっていいものか、そんな風にはさせたくない、このすべてを自分に、自分の永遠と自分の真実に適用し、それが新たに成長するのを助けたいという、居ても立ってもいられないような狂おしい願望に彼はとらわれた。方法はあるーーただ一つの方法が。」
「そして非対称性や不平等に向かおうとする衝動から、ぼくには本当の自由を求める叫びが聞こえる、それは円環から脱出したいという願望であって…」
そして時間のかなたへと飛翔するのだ。
「さらば、本よ!」
- 感想投稿日 : 2012年1月29日
- 読了日 : 2012年1月29日
- 本棚登録日 : 2012年1月29日
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