ジャン・クリストフ 2 (岩波文庫 赤 555-2)

  • 岩波書店 (1986年7月16日発売)
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ドイツの古い宮廷音楽の世界でクリストフはピアノ演奏や作曲を父親から徹底して仕込まれ、音楽家の卵として周りからも注目される実力を身につける。成長に伴い当時のドイツ古典派・ロマン派作家やその演奏に対する疑問や不満が芽生え、ついには爆発する。古典派の自由の欠乏・月並みな音楽的修辞での誇張・機械的な繰り返しとこねくり回し、ロマン派の下卑た騎士道・偽善的なもったい振り‥‥それは彼の母体・幼年時代の偶像であるドイツ芸術そのものへの盲目的な反動と反発になり、懐疑・否定・軋轢を生み、暗黒で苦悩の人生に突入する。
ドイツを飛び出しフランスパリでの生活に入るが、ここではもっと酷い環境に遭遇する。虚偽の化身・理性と理屈と空論と心理と時代遅れの考古学の陳列・果てしない饒舌、クリストフは淫猥で熱狂的な社交界の腐敗に翻弄されながらもフランスの魂を求め続ける。音楽の世界では評論家が跋扈し対位法派と和声派に分かれて無為な議論を繰り返している。
音楽に疎い自分には理解はおろかついていくことすら大変である。いろいろな登場人物とのエピソードも多く話が哲学や宗教・政治や歴史に及び、作者の経験と知性が総動員されるくだりである。時代を先取りする思想や価値観そして倫理観に裏打ちされていて充分読み応えがある。芸術家が生まれるための生みの苦しみ、悩みの深さ、生活の苦しさが当時のドイツやフランスの社会状況の中で克明に描写される。‥‥「彼は疲れ、凍え、飢え、一人きりであった。」
この作品にとっては、芸術や音楽が人間の心との関わりを究める高潮する場面であり、読み手をさざなみのように段々と高揚感の世界に誘導していく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年3月4日
読了日 : 2023年3月4日
本棚登録日 : 2023年3月4日

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