【感想】
不器用で無骨な父と、周りに愛されて優秀に成長していく男の子の物語。
正直、読んでいる途中エグイくらい号泣しました。
自身が親になって以来、この手のハートウォーミングな物語にはめっきり弱くなりましたね(笑)
また、自分がこうしてイチ大人として今も元気で過ごせているのは親のおかげですので、この1冊を読むことで、親や周りの大人たちへの感謝の気持ちが思い起こされました。
僕の背中が今寒くないのは、周りの沢山の方々に支えて生きているからなんですね。
さて、本作品のレビューです。
ある事故がきっかけで父子二人の家庭となってしまったヤスさんとアキラ。
アキラが大人になるまでの成長と、ヤスさんの父としての成長が描かれた物語でした。
「とんびと鷹の親子」と描写があるように、ちょっと乱暴で不器用なヤスさんに対し、アキラは母を亡くした環境ながらも周りの愛に恵まれ、明るさと利発さを持ちながら成長していきます。
そんなアキラの成長の過程において、ヤスさんは戸惑いながらもしっかりと向き合い、ヤスさん自身も同じく人として成長していく様が描かれていました。
本作品の見どころとしては、色々な伏線が各所に張り巡らされていて、最後に回収されていた点だと思います。
1つ目は、ヤスさんの実の父親について。
ヤスさんは出生時に母親をなくし、また幼少時に父親と別れたことで、妻の美佐子さんと出会うまでは天涯孤独の身として大人になっています。
だからこそ、父親とはどうあるべきかを都度思い悩んでいたのですが、誰よりも家族の大切さを重んじていたのかと思います。
作品の終盤、病に臥した実父との対面シーンがありましたが、その時に「わしも、幸せな人生を送らせてもろうとる」と胸を張って言う事のできたヤスさん。
大変な日々だったと思いますが、老先に「今が幸せだ」という事の出来る人生にしたいなと、僕自身も思いました。
2つ目は、母・美佐子さんが死んだ理由について。
この理由に関して、読者である我々は勿論知っている事ですが、ヤスさんは幼いアキラを傷つけない為、「お母さんはワシのせいで死んだ」と優しい噓をついてしまいます。
ただこの「噓」は、結局アキラが成人になった時に、ヤスさんの口からではなく"和尚の遺言"によってアキラに事実を告げられます。
その事実を知った時に、「それでも、父を恨むことはまったくなかった。我慢したのではなく、そんな思いは一切湧いてこなかった。」「そのことが僕は嬉しい。僕自身ではなく、僕に恨みを抱かせなかった父を誇りに思う。」という気持ちになれたアキラ。
僕にとってこのシーンが、1番号泣したポイントでしたね(笑)
作中、「親とは寂しいものだ。親とはわりに合わないものだ。だけど、親になってよかった」という文章がありました。
僕自身、イチ親としては妻に頼りっきりで、色々と足りていない事があると思うので、そこは充分反省・改善しなくては・・・
我が子の成長をしっかり見て、文字通り親身になって育てて、我が子が大きくなった時に、子に感謝してもらえるような父親になりたいと思いました。
【あらすじ】
昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。
愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。
しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。
アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。
我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。
魂ふるえる、父と息子の物語。
【メモ】
p39
ヤスさんは父親になった。
予定日より二週間以上早く生まれたアキラは、体重こそ2700グラム足らずだったが、元気な赤ん坊だった。
「とんび」と「鷹」の長い旅路が、始まった。
p104
「アキラ、おまえにはお母ちゃんはおらん。背中はずうっと寒いままじゃ。お父ちゃんがどげん一所懸命抱いてくれても、背中までは抱ききれん。その寒さを背負ういうことが、アキラにとっての生きるいうことなんじゃ」
和尚が言う。
「アキラ、おまえはお母ちゃんがおらん。ほいでも、背中が寒うてかなわんときは、こげんして、みんなで温めてやる。おまえが風邪をひかんように、みんなで、背中を温めちゃる。ずうっと、ずうっと、そうしちゃるよ。」
「じゃけん、背中が寒うないおまえは、さびしゅうない。のう、おまえにはお母ちゃんがおらん代わりに、背中を温めてくれる者がぎょうさんおるんじゃ。それを忘れるなや、のう、アキラ」
p154
「のう、ねえちゃん。わしは長生きするけん。アキラのそばから離れんど。どげん嫌われても、ぴたーってくっついて離れんけん」
見届けなければならない。アキラが成長していく、その一瞬一瞬を、しっかりと目に焼き付けておかなければならない。
そして、いつの日か、天国で美佐子さんと再会したときに、たくさん話してやるのだ。
p241
和尚の最期の言葉を聞けなかったことを、いつかアキラはあらためて悔やむだろうか。
それもいいかもしれない。
人生には、どうしようもないすれ違いや食い違いや、一歩遅れのことや、先走ってしまうことがある。
人が生きるということはそういうことなのだ。
p283
親とは、割に合わないものだ。
「しんどい思いをして子供を育ててきて、なんのことはない、最後は子供に捨てられるんよ。自分を捨てる子供を必死に育ててきたんや思うと、ほんま自分が不憫になってしまうど」
親とは、寂しいものだ。
親とは、悲しいものだ。
親とは、愚かなものだ。
親とは、一所懸命なものだ。
親とは…
親とは…
親とは…
親になって、良かった。
p338
ここにもまた、何かが欠けていたり、つぎはぎだったりする家族がいる。
それでも、「幸せじゃったか?」とヤスさんが訊くと、少しはにかみながら「はい」と頷く親子がいる。
「両親は仲良しじゃったか?」と訊くと、「ええ、すごく」と笑って答える夫婦がいる。
ヤスさんは大きく二度頷いて、「ウチもじゃ」と笑った。
「わしも、幸せな人生を送らせてもろうとる」
ほかには、もう、なにも言うことはなかった。
p353
和尚の手紙を読んで初めて気づいた。
僕は確かに、母は父をかばって死んだんだと思い込んでいた。
だが、本当に、ただの一度も、「父のせいだ」とは思わなかったのだ。
父は告白したあと「恨んでもいい」と言った。
僕もその時はうなずいた。
それでも、父を恨むことはまったくなかった。
我慢したのではなく、そんな思いは一切湧いてこなかった。
そのことが僕は嬉しい。
僕自身ではなく、僕に恨みを抱かせなかった父を誇りに思う。
p367
「山あり谷ありのほうが、人生の景色が綺麗なんよ」
p404
アキラは、まるでどこかの隙間にねじ込むような早口で「俺、寂しいことなんかなかったよ」と言った。「親父がいたから、全然、寂しくなかった・・・」
「わしもじゃ」顔は見ない。「わしも、アキラがおってくれたけん、寂しいことはなかった」
p404
「だから、さっきの話だけど、やっぱり東京で・・・」
「のうアキラ、由美さん」
さえぎって、やっと2人を正面から見つめた。
「一つだけ言うとく。健介のことも、生まれてくる赤ん坊のことも、幸せにしてやるやら思わんでええど。親はそげん偉うない。子育てで間違えたことはなんぼでもある。悔やんどることを言い出したらきりがない。」
「ほいでも、アキラはようまっすぐ育ってくれた。おまえが、自分の力で、まっすぐに育ったんじゃ」
- 感想投稿日 : 2020年10月20日
- 読了日 : 2020年10月20日
- 本棚登録日 : 2020年10月20日
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