「ユダヤ人問題によせて」ではユダヤ人の置かれた状況を通じて、19世紀の国家のありかたを提言するものとなっています。また、プロレタリア革命という思想を創造する前のマルクスの思想を知る手がかりでもあります。
当時のドイツはヘーゲルの国家観を理想としつつも、政治的社会的に統一から隔たった状況にありました。特に領邦の各所に生活するユダヤ人は統一の妨げの代表的な存在だったことでしょう。
本書でマルクスから批判されているブルーノは、ユダヤ人の脱ユダヤ教の必要性を説いています。キリスト教者も同様に宗教を棄揚することで、国家を近代的な中性国家にさせようとしています。
マルクスは反対にアメリカの例を挙げ、各人が多様な宗教を信奉しながら、中性国家を創造する可能性を説明します。そして宗教に限らず、財産や、身分、教養、職業などの特殊性の存在と、普遍的存在としての国家を世界に並置します。
これは明瞭に国家と市民社会の別を意識するが故のことです。マルクスは市民社会を利己主義の領域、万人の万人に対する戦いの領域と考え、宗教を含めた様々な特殊性を詰め込みます。
ここまではいかにも優等生的ですが、以降が面白い。その市民社会の領域が商売や貨幣が重きをなしていることで、いかにもユダヤ的であるというのです。ついには、ユダヤ人の解放は、ユダヤ教からの人類の解放だと明言します。また、最後にもう一度、ユダヤ人の社会的解放は、ユダヤ教からの社会の解放であるとも。後の資本主義社会への批判の萌芽が、ユダヤ教と絡めて見られることは興味深い事実ではないでしょうか。
- 感想投稿日 : 2017年2月12日
- 読了日 : 2017年2月12日
- 本棚登録日 : 2017年2月3日
みんなの感想をみる