スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1987年3月25日発売)
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初めてのスティーブン・キングさん。
ずっと避けていた理由は、ただ一つで、「怖いのは嫌いだから」。
どの小説も、怖そうなんですもん。
ところが去年、「11/22/63」という小説は、ホラーじゃなさそうだし、読んでみたいなあ、と思いまして。
(ただ、これは、ハードカバーな上に2段組みである、という理由で忌避しました。2段組み、なんとなく好きじゃないんですよね)
続いて、たまたま、読書家な知人とおしゃべりをした際に、その人から「スティーブン・キング愛」を語られたこともあって。
「ぼちぼち、読んでみるか」と。
でも、ホラーはやっぱり怖いので…。いろいろ考えて、「これなら怖くあるまい」と思われたこの本から、読んでみました。

面白かったです。映画化されたものを何度も見ているので、そのイメージで読んでしまった、ということがありますが。
それを差し引いても、「あ、この人、多分、何を書いてもそこそこ面白いんだな」という文章力。
それから、なんとなく、1冊だけでも、この人の「ホラー」と呼ばれる原風景が想像される気もしました。

1982年にアメリカで発表された小説です。スティーブン・キングさん、1947年生まれ。
1974年に「キャリー」でデビュー当時、27歳だったわけですね。
デビューから、とにかく「ホラー小説家・娯楽小説家」として位置づけられていました。
そのあたりの、「レッテルの貼られ方」は、この本の中にも何度か言及されています。

この本は、そんなキングさんが、「これはホラーじゃない。普通の小説として読んでほしい」と思った小説なんです。
原著作は、直訳すると「それぞれの季節」というタイトルの本だったそうです。春夏秋冬、四編の中編・短編が含まれていました。

ところが、これが日本語訳になると、「恐怖の四季」とされてしまいました(笑)。可哀そうに、ですね…。

さて、原著は春夏秋冬の四編が1冊に入っていたそうですが、日本語訳では、「秋冬編」「春夏編」に分けて本になりました。
この本は、「秋冬編」。秋編の小説は直訳すれば「ある死体」というタイトルなんです。
1960年代前半。キャッスルロック、という田舎街。13歳前後くらいの、四人組の少年たち。
その少年たちが、「ある死体」が放置されている、と聞いて、晩夏の冒険に湖のほとりまで、長く多感な徒歩旅行に出かける、という友情と感動の物語です。

そして、この中編小説が映画になりました。1986年アメリカ公開。
(キングさんの小説はほとんど映画になるんです。「それぞれの四季」も、冬編以外全部映画になっています)

この、「ある死体」の映画化は、1961年の全米ヒット曲をテーマソングにして、題名もその曲から「スタンド・バイ・ミー」に改題されました。
このロブ・ライナー監督の映画が、大ヒット。内容も実に素敵で、公開からおよそ30年、今でも定番の名作になっています。
日本語翻訳版は、この映画の日本公開年(1987)に出版されました。そこで、本のタイトルも映画に沿って、改題されています。

(ちなみに、スティーブン・キングさんが、映画「スタンド・バイ・ミー」を観て、「僕の小説をこんなに美しい映画にしてくれてありがとう」と泣いた、という逸話があるそうですね)


面白かったです。語り口が滑らかで、いちいち気が利いています。
そういう意味では、村上春樹さんの文章に似ていると思います。
これ、実は大変な美徳なんですけどね。でも深くは言及しません。

この本、「スタンド・バイ・ミー」と「マンハッタンの奇譚クラブ」の2編ですが、8割が「スタンド・バイ・ミー」。「マンハッタンの奇譚クラブ」は掌編です。
「スタンド・バイ・ミー」については、映画版がとても素敵なんですが、原作を読んでビックリしたのは、「ほとんど原作のまんまだ」ということですね。
映画の素敵な部分、要素、味わいは、ほぼ一つ残らず原作にありました。
そして、その素敵な部分っていうのは、「哀しい部分」の裏返しなんですね。
それは何かっていうと、「閉鎖的で暴力的でヤンキー的で反知性的で差別的な集団の中で、生きていくこと」なんですね。

少年たちは、キャッスルロック、という田舎町で生きています。
アメリカの田舎町の1960年代っていうのは、そういうことだったんだなあ、としみじみ思い知らされます。
WASP至上主義の差別が露骨です。地元の会社で働き、小学校時代からの仲間とつるみ、車と女と酒と暴力でウサを晴らす男たち。
決まった時間に決まったバーの決まった椅子に腰かけて、酒を飲んでビリヤード。
そんな男たちに殴られながら育ち、「いずれ自分もそうなるに違いない」と達観させられる子供たち。

そして、物語のメインは、クリスという少年の悲劇と戦いの記録、だなあ、と思うんですが。
結局、今の日本風に言えば、低所得でDVな父親、兄貴、に深刻な暴力で支配されている可哀そうな子供なんですね。
言ってみれば、キャッスルロックの縮図な訳です。

この、「閉鎖的で暴力的でヤンキー的で反知性的で差別的な集団の中で、生きていくこと」という題材を煮詰めていくときに、恐らくキングさんのホラー物語も炸裂するんだろうなあ、と思います。
単なる超常現象恐怖だけで、何十年も売れるはずはないですからね。
そこで描かれている人間ドラマっていうのは、確実にアメリカの、消費社会一般の、ヒトの心の歪みっていうのを見つめているのでしょう。

と、言うようなことをぼんやり思いつつ、読了。

まずは、スティーブン・キングさんを1冊読んだぞ、と(笑)。もう怖くないぞ、と思っています。
機会があったら、「IT」とか「11/22/63」を読んでみたいなあ、と思っています。


(ちなみに「マンハッタンの奇譚クラブ」は、なんだかO・ヘンリーと「クリスマス・キャロル」がリアリズムでハードになったような…。
 それでも、やっぱり、「未婚の母が、世間からの差別にさらされる悲劇と怒り」というのが根っこにありました)












###########以下、備忘録として############


四人の少年の物語です。みんな、田舎町のちょっと貧しい労働者階級の家庭の少年、という感じです。

●ゴーディ=語り部。この人は、長じて小説家になった。という設定で、少年時代を振り返っての一人称。出来の良かった兄が最近、事故死した。その心の傷が癒えない。
●クリス=父がアル中、兄が不良。どちらもほぼ、犯罪者、という崩壊家庭。四人組の中のリーダー格。
●テディ=父が元兵士だが、気が触れている。家庭内暴力で難聴かつ強度の近眼になっている。カッとなりやすい。
●バーン=いちばん、なんともあまり個性が印象に残らない。気の良い子、という感じ。

で、まあ、もっと言うと、ゴーディとクリスの友情の物語、とも言えます。

それぞれに、家庭に居心地の良い居場所が無くて、うだうだしていた四人。
街の不良たちの噂話を立ち聞きして、列車にはねられた同年代の少年の遺体がある、と聞いて、発見しに1泊旅行に出かけます。
親に黙って、毛布だけくるっと巻いて肩にかけ。てくてく線路沿いを歩いていくわけです。

犬にかまれそうになったり、ヒルに襲われたり、列車にひかれそうになったり。
いろいろ小中の冒険があって、目的地に着きます。
そこまでの過程で、

●テディが、精神病の父に歪んだ愛着を持っていて、からかわれると傷つく。
●ゴーディは、死んだ兄を、親を含め皆が賞賛するので、「自分が生きている意味」を悩んでいる。
●少年たちはやがて、進学コースで別れる季節を目前にしている。ゴーディ以外は、進学しない不良コースに行くであろう。
●彼らの田舎町は、不良たちが小さな暴力で少年たちを支配している。
●貧しい家庭のクリスは、給食費を盗んだ、という犯人にされているが、実はそれは先生が着服していた。クリスは傷ついた。
●クリスの家庭では、深刻な家庭内暴力が行われている。クリスは被害者である。
●ゴーディとクリスは、仲が良い。
●ゴーディは物語作者を目指している。その才能を、クリスは評価している。

と、言ったようなことが織り込まれていきます。

さて、物語の縦軸としては。
とうとう死体を発見しますが、そこに、街の不良たちが車でやってきます。(クリスやバーンの兄も含まれています)

「死体を発見した、と地元の新聞に出て、話題になる」

という権利?を巡って喧嘩になります。
当然不良の方が大人だから強いんですが、拳銃で威嚇して、少年たちが勝つんですね。

勝つけど、もう、地元の新聞に云々、とかをしたい訳じゃない。ただ、アイツらに取られたくなかったんですね。
この二日間の、時間を。

で、ボロボロに疲れて帰ってきます。四人それぞれに、不良たちに制裁に合います。タコ殴りにされて、骨が折れたりするんです。怖いですね。
まあ、でも、死にません。
時はザザザっと流れて。
クリスの予言通り、四人組としての友情はあれよあれよと、終わりを迎えます。なんとなく。
テディとバーンは、別のグループを作ります。ふたりは地元で働きます。交通事故、火事で死んでしまいます。
クリスは、頑張って進学コースに。ゴーディと猛勉強して大学入学、地元から脱出するんです。
でも、キャンパスが別々になって、熱い友情はなんとなくそれで終わります。
そして、弁護士を目指していたときに、クリスは行きずりの犯罪に巻き込まれて、死んじゃいます。

まあ、そんなお話です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2014年9月16日
読了日 : 2014年9月16日
本棚登録日 : 2014年9月16日

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