少女は卒業しない (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2015年2月20日発売)
3.81
  • (209)
  • (344)
  • (260)
  • (39)
  • (11)
本棚登録 : 4367
感想 : 300
5

文庫ではなく、単行本を読んだ時のレビューです。ご了承ください。<(_ _)>

冬の終わりとも春の始まりともつかない時期、三月の終わり。
凛として冷たく、それでいて柔らかさもある風がすうっと肌を撫でていく。
切ない卒業式のそんな空気感を持った、爽やかで瑞々しい作品集。

作者である朝井リョウ君の感性と才能はなかなかなものではないかと。
ふーむ。最近の「都の西北」の学生にも、見所のある若者がいるのだなあと。
それにしても、某映画配給会社に就職して、今後作家活動などできるのだろうか。
それが、少し心配ですが。

ふんわり浮かんだ大きなシャボン玉
耳を澄ませば聞こえる川のせせらぎの音
ツンと鼻の奥をくすぐる樹木の緑の香り
目に飛び込んでくる透き通るような青い空
日の差し込む窓から見える風景
角がまるくなった消しゴム
0.5mmのシャープペン
カッターの傷跡の残った机
あの子の座っていた木製椅子
赤ペンで滲んだ答案用紙

傘置き場に忘れさられた一本の傘
蝶番の壊れた下駄箱
体育館の床に貼られた白いテープ
自分の背より低くなった演壇
風になびく体育館の暗幕
誰もいなくなった教室
砂煙の舞いあがるグラウンド
文化祭で使われた古いパイプ椅子
卒業生の書いた壁画

たいせつな仲間たち
そして、それらすべてに決別する卒業式

いくつになっても、いつになっても、ずっとずっと忘れないだろうたくさんの思い出

瞼の裏に浮かぶ涙は何ゆえか。
ああ、やはりあれは間違いなく青春という言葉だったなあと。
青春というかけがえのない時期だったなあと。
決して忘れてはいけない真っ直ぐな心だったのだと。

いかにも生の、今そこにいる高校生の息遣いが聞こえてくるような透明感。
好きでした、と秘かに憧れていた先生へ、心の中にだけ聞こえるように呟く別れの言葉。
これからの路は別れ別れになる二人の屋上での切ない会話。
在校生代表の送辞の中で先輩への思いを敢えて告白する二年生女子。

別れ、そして旅立ち。
でも、少女たちは卒業しない。

七本の絡まりあった短編すべてが、切なく胸に響いてくる作品でした。
ああ、こんな時代が自分にもあったのだなあ、と遥か昔を思い起こさせてくれるような。

この年になっても、こういう作品を読むと昔の自分を思い出して胸が熱くなる。
アルバムを見て呟く。好きだったんだ、君のことが、と。
私も、まだ卒業できていない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 朝井 リョウ
感想投稿日 : 2020年5月23日
読了日 : 2020年5月23日
本棚登録日 : 2020年4月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする